「っなまえ…俺達、とんでもねぇこと…!!」
「あんたのこと信じらんなくて…本当にすまねぇ!!」
ルイに手を握られながら次から次へと頭を下げられて、どこか現実離れしたその光景を、私は呆然と見つめていた。
「なまえさん、別に許したくなきゃ許さなくてもいいんスよ」
カズは言った。
「そうだよ。なまえ」
メグも頷く。
「…」
私は、考えた末にルイの手をほどき、一様に頭を下げる彼らのもとに向かった。
「皆…顔上げて」
私の言葉に従って、皆の顔が上がる。どれもこれも私の頭よりは高い位置にあるが、まあこの位なら大丈夫であろう。
「歯食いしばんな」
「え」
――バキッ
「ぐほっ」
――ボギッ
「ブハッ」
右から順に、少しの手加減もせず猛烈なパンチを繰り返す。ほっぺたに一撃なんて甘いもんじゃない。全員もれなく顔面だ。
「…なまえの奴…今まで一回も反撃しなかったのはこの所為か」
「なまえさんのワンパン顔面にくらうとか…キツイっす」
メグとカズの小声でのやり取りが耳に入ったが、ここは聞き流す事にしよう。
「ボファッ」
最後の一人を沈めて辺りを見回すと、ほとんどが膝をつき顔を抑えて呻いていた。
「女のパンチじゃねぇよ…」
「なまえさん…かわんねぇ」
「いてぇ」
「くそ…」
うん、大丈夫そうだ。
「ルイ」
私はくるりと体の向きを変え、ルイを見上げた。
ルイの喉がごくりとなる。
「覚悟はいい?」
「―――…カッ、何発でもきやがれ」ルイは腕を後ろに回して、反撃をしない意志を示した。
「じゃあお言葉に甘えて。――――っくぉの、」
私は拳を固め、思い切りルイの右頬を殴る。
「大馬鹿野郎!!!!」
バキッ
「ッッ!!」
ルイはよろけたが、倒れる事なく踏ん張って固く目を閉じた。私からの第二波、三波を危惧しているのだろう。ご期待に応えてやろう。
私は教室の端まで下がって助走をつけた。
さすがのルイも目を見張っている。
「あ、あれはなまえさんの専売特許…!!」
「助走付きドロップキックだ…!!!!」
走り出した私が宙に浮くのをルイはしかと目に焼き付けたはずだ。そして私もまたルイの背中にまわっていた腕が、サッと横に開くのを見る。
――なんだ、やっぱりルイには分かったみたい。
「ルイ」
次の瞬間、ばふっとルイの胸板に顔をぶつける。多少よろめきつつも踏ん張ったルイの腕に収まった私は、きつくきつく抱きしめられるのを感じた。
これが、私の答え。
ばかだから。
私には結局、この答え以外に導き出せないのである。
私の気持ちが通じたのか、ルイは私を抱きしめながら、喉から絞り出すように謝罪した。
「っっっ…悪ィ、なまえ…!!!悪い!」
「、ル」
「惚れた女一人、信じきれねェなんて情けねえ…俺は…!!なまえ、…オレは」
「ルイ」
私は笑った。
ルイを慰めるための笑顔じゃない。
思わず零れてしまった、のだ。
「やり直そうよ。もう一回」