「……っふ」
私が笑ったのが分かったのだろう。ルイが体を遠ざけた。私は今度こそ、首を後ろに向けた。
頬の涙をしっかり拭って笑う私を、ルイは困惑した目で見つめている。
「…馬鹿だよね!」
「、俺がかよ」
ルイの声は少し掠れていた。
久しぶりに聞いた怒鳴り声以外のそれを心に沁み渡らせながら、首を振る。
「………バイクで来た?」
「…ああ」
「乗せてくれない?」
自分でも唐突な頼みだと分かっている。でも、
「…最後だから。おねがい」
ルイが小さく頷いて歩き出す。私は楽器をケースにしまって彼の背中を追った。
ドゥルル
無言で渡されたヘルメット。昔からルイの癖だ。
前に乗ったルイの腰に腕を回すのに躊躇ってしまったのは、私。ふいに、変わってしまった関係を直視した気分になった。
「行くぞ。」
「、うん。」
咄嗟に応えると走り出すバイク。
ルイと自分の間にケースを挟んで走るのも昔はいつもの事で。あたりまえの平凡で。
「……っ。」
何だか無性に泣けてきた。
これはきっと、嬉し泣き。
(ほら、馬鹿でしょ…?)
ルイが私を信じてくれると言ってくれたわけでもないのに。
彼の体温をすぐ傍に感じられた、それだけで、私の胸には、こんなに勇気が溢れる。
――ルイ
公園から学校までなんて5分もあればついてしまう。
その短い間に精一杯の幸せを感じて、校門前に停まったバイクの後ろを飛び下りる。
「サンキュ」
ヘルメットを脱いで返した。
名残惜しさなんて感じてはいられない。
「………なあ」
「待って」
ルイの言葉を遮る。私は背筋を伸ばし、自分の思いつく限り凛とした表情を作った。
「決着、つけてから聞く」
ぱっと身を翻して走り出した私の背中に、ルイの声がかかる。
「なまえ!」
「…」
耳を塞ぎたくなってしまうよ。
今日の私の涙腺は、とってもゆるいんだから。
校舎に飛び込んでまず部室に向かった。
――ガチャッ
「リナ!」
「うわ!」
「あ、カズ。リナは?」
「なまえさん!ど、どこにいたんスか!あ!それより部誌!あの」
「そんなのいいから、リナどこ!」
「リナさん?そういやさっき教室に用があるとか言って」
「サンキュ!」
カズ以外の奴らがなんかごちゃごちゃ言っていたけど、そんなの知った事か。
カズがどうにかしてくれるだろう。と全てを投げて教室に向かう。
「…リナ」
教室の扉を開けて中に入れば、窓の外を眺めていたリナがこちらを向いた。彼女の手に握られているのは携帯電話。
リナは特に驚いた様子もなくニヤリとほくそ笑んだ。
私は扉を閉めて彼女に近付く。
「あら、なまえちゃん。リナに何か用?」
「うん」
「ま、大体予想はつくけどね」
「そう。じゃあ、単刀直入に言わせてもらうね。
賊学から、すぐに立ち去って。」