ざり、と後ろで土を踏む音がして急いで振り返る。するとその相手の姿を確認する間もなく視界が塞がれた。
大きく冷たい手のひら。

「…」

私は息を吐いて、振り返りかけていた首を前に戻した。
手は相変わらず私の瞼を覆ったまま。


「…誰?」

その相手は答えない。

「メグ、じゃないよね。手がおっきいもん」

「…」

「じゃあカズかな。」


なんて、分かるよ
ばかだな

頬に当たる袖口から長い白ランを想像する。
大きな手のひらは、アメフトボールを片手で持てちゃう右手。
鼻腔をかすめた煙草の匂いは、自分で吸ってるにしてはちょっと薄いよね


「……部誌、燃え尽きる前でよかったね」

「、」

「みんな必死で探してた。やっぱり、アメフト好きなんだよね。」

私は左腕できゅっとトランペットを握った。
――もう


「次の大会は、一月後だっけ。」

こんなふうに
優しく触れてもらえることなんて
出来ないと思ってた


「…でもその前に、泥門と練習試合組むって」

だから
正直、心臓が


「メグがいってた。あの、泥門の…なんだっけ……怖い人、いるけど」


痛いくらいに緊張して。
何をしゃべっても上手くしゃべれない。


「がんばって…それで」


平気な素振りも、

「…がんばて…っ、……」


もうもたない。



「、………っ」


震える右手で、わたしの目を覆う手を押さえた。

熱いものが流れ出して止まらない。
気を抜くと、喉の奥で咬み殺した嗚咽が漏れそうになる。


どうして


なんで



「どうして、来たの………っ
 ルイ……」


大きな手のひらは私の右手を握りながら目元を離れる。涙で歪んだ世界。怖くて振りかえれない私を、後ろからルイは抱きしめた。

「………」

ルイは何も言わなかった。私も黙って、されるがままになっている。
それはとても、静かな時間だった。
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