校舎内のどこにも、あいつのお気に入りの草むらにも、その姿は見つけられなかった。
――どこにいる。
どこを探せばいい。
――探してどうする。
見つけてどうする。

今更あいつに、礼でも言うつもりなのか。

葛藤が俺の足を止めた。


「……なまえ」




〜…

「!」

西から吹き抜けた風に振り返る。そこには誰の姿もなかったが、確かにあいつの音が聞こえた。
俺はバイクの向きを変えてそちらに向かう。
――絶対にいる。
会ってどうする。見つけてどうする。そんなこと、後で決めればいい。

今はあいつに会わなきゃならねェ…


あいつは、きっと、
泣いているんだろうから。





公園になまえの姿が見えて、少し離れたところにバイクを停めた。
なまえとガキがひとり。

俺は、この曲を知ってる。

なまえがこの曲を、こんなに滑らかな旋律で奏でられるようになるより、ずっと前から。
――ブツ、


(…ほら)

「…あー…ね、なんか出てくんね、これ」

「とまんない」



少ししてガキが帰った。なまえは楽器を抱いたまま、俺に背を向けて、ブランコをこぎ続けている。
ギイ、

ギイ、

俺は強張る足を無理矢理踏み出して、公園の入り口を目指した。無意識に足音を潜めてしまう。息も殺す。
あいつのもとに向かう俺は、あいつに気付かれないように必死だった。

「…」

――なんて馬鹿げた矛盾だよ。

足を止める。


気付かれたい。
気付かれたくない。

話しかけたい。
話したくない。

声がききたい、

顔が見たい、…?


泣くな…

……泣かせたく、ねぇ


「ル、イ…」
震える肩が目に映って、か細い呟きが鼓膜を揺らした。
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