ギイ、ギイ、
ブランコの揺れる音に顔を上げれば、少し先の公園に男の子が一人、ポツンと寂しげにブランコをこいでいた。
どうしたのかな。
友達いないのかな。
と、勝手に妙な親近感を覚え、ふらふらと公園に近付く。
「……何で泣いてるの?」思わず訪ねてしまった。
少年は泣いていたからだ。
急に声をかけた私を不審がる様子もなく、彼は言った。
「…あっちへ行ってよ」
それはとても小さな声で、ひっくと嗚咽が混じっていた。
私はどうする事も出来ず、内心ひどく狼狽しながらブランコの傍に立ち尽くした。(…どうしよう)
「と、ともだち…いないの?」
「いっぱいいるよ」
うん…違かった。
ごめんよ勝手に仲間意識めばえたりしちゃって。
私がとぼとぼ帰ろうとしたところで、後ろから小さな声は続けた。
「ここの公園が取り壊されちゃうの」
「明日か…明後日か…そのへんには」
「…だから泣いてるんだ。」
目元をこすりながら言う少年。胸元にピンでとめられている名札には、3-2田中夜助、と滲んだネームペンでつづられている。
「…ふうん」
私は呟いて、視線をこじんまりとした公園の中へ移した。この場所にあるのは、ベンチと滑り台と、このブランコだけだった。
再び夜助君を見れば、その表情は深く沈んだままだ。
ここは、彼にとって思い入れのある場所なのだろうか。
なくなってほしくない場所なのだろうか。
大切な、彼の居場所なのだろうか。
「…」
私は、彼の隣に腰を下ろしてみた。
夜助くんは特に気にしたふうもない。よっぽどこの公園と別れを惜しみたいのだろう。
公園は、鈴虫の鳴く声と、ブランコの軋む音と、秋色の沈黙で満たされた。
「…あの、さ」
「……?」
「ちょっとだけ…煩くしてもいい?」
私がトランペットのケースから中身を取り出すと、夜助くんは驚いたように目を見開いたが、黙って頷いた。
私はマウスピースに唇を寄せて、
軽く調整をしてから彼に微笑みかけた。
立ち上がった私を、目で追う夜助くん。
「通りすがりの高校生だけど…。
きみと、きみの好きなこの公園に、一曲贈りたいと思います。」
うやうやしく一礼をして見せた。
いつの間にか、オレンジ色の空にかかる雲は薄い紫を帯びていた。
「聞いてください。
茜色のシェリー」