「何をブスくれていやがる」 「話しかけないでくんない」 帰りの車の中の空気はまあ最悪だった。 運転するコルン、助手席のキャンティ。私とジンに挟まれて座るウォッカ。機嫌最悪な私と、同じくイラついているジン。間違いなく一番可哀想なのは間にいるウォッカだった。 「ロイ、お前の役割は端からこうと決まっていたはずだ」 「はァー?何それまるでご存知ないんですけど」 「ほざくのも大概にしろ」 「いやいや流石にほざくでしょ。あれは人にすることじゃないわ。外道の所業だわ」 温厚仏の如しで名の知れた私が、どうしてこんなにもブチ切れているのか。それは例の取引場面での出来事が原因だ。 すり替えたアタッシュケースの番号を私に確認させたジン。私は視力が異様に良いので、近くに行って確認せずともその番号を読み取ることが出来た。何て便利な吸血鬼。なのに。なのにだ!!! 「番号押し終えた瞬間、あのオジサン爆発したじゃん!!!!!」 そう、すり替えた先のアタッシュケースには爆弾が仕込まれていたのだ。 「証拠ひとつ残さずに消すのが組織のルールだ。当然だろう」 「ダイナミックに塵にし過ぎじゃない!?別の意味で目立つわ」 「爆弾事件なんざよくあることだ」 「ないよ!いやこの際あってもいいけど、私が言いたいのはそこじゃない」 車にひたりと沈黙が落ちる。 「あそこに番号確認しに行ってたら、私も無事じゃ済まなかった」 名前、とウォッカが私に目を落とす。 けどその向こうのジンはきっとこちらを見てもいない。挙句、 「爆弾でなら死ぬのか」 ずくんと胸が締まった。 結局ジンはどれだけ私と過ごそうが、一緒にご飯を食べようが、一番の望みは未だに私に死んでもらうことなのだ。 「.......死なないよ、馬鹿」 「だろうな」 「けど痛いでしょ、絶対。爆発に巻き込まれたことないから分かんないけど、腕とか足とかどっかに行っちゃうかもしれないし、顔や体も火傷で酷い有様かもね。そしたら」 あ、まずい。 そう思った時にはポロリと涙が膝に落ちていた。 ジンがこちらを見た。 私は、目を逸らさなかった。 「そしたらーーそれでもまだ死ねない私は、きっと、人間には見えないね」 ジンの瞳が微かに見開かれる。 その意図が私には分からなかったが、私の方は一筋の涙と一緒に色んなものが流れ出たらしい。期待や落胆なんかが全部。 あとに残ったものはたったひとつだけ。 ジンの腕がこちらに伸び、頬に触れようとするのを片手で弾く。 「...なーんちゃって!嘘ぴょーん!怒ってないよ」 「.......」 「とにかく私先に家に帰るから、ジンウチくるなら自分で鍵開けて入ってきてね」 「.....おい」 「それと毎日キス1回の話だけど」「うお!」 ウォッカの膝に乗りあがってジンの胸ぐらを掴み、そのまま薄い唇に吸い付いた。しかも、ガチンと歯がぶつかる勢いで。イテテ。ジンの唇からも血が出ているザマーミロ。 「私はもうしないから、明日以降はジンからしてね」 可愛らしく言って、車から飛び降りた。高速?気にしない。後ろでキャンティの度肝抜かれた声が聞こえたけどそれも気にしない。あの車内に残されたジンのことを思うと少し胸がスっとした。.....けど。 (最後に残った感情が、諦めや失望だったら良かったのに) 私の胸に欠片となって疼くのは、やはり彼への微かな思いだというのだから、ちっとも笑えない。 ×
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