「何のつもりね」
「何って、理由なんかないよ◆偶然通り掛かっただけさ」

ヒソカさんはいつもと何ら変わりない笑みを浮かべてスタスタ近寄ってきた。

「おやおや、随分とボロボロだね」
「お前に関係ないね」
「そんなこと言うなよ、傷つくじゃないか」
「.....フェイ」

ヒソカさんが来て少しだけ冷静さが手元に戻ってきた。そろそろと上体を持ち上げて、じっとフェイタンを見つめる。

「......」

それでも何を言っていいのかは分からなかった。

どうして急に襲ってきたの?私を殺したくなったの?優しくするのはもうやめたの?もう嫌いになったの?

友達ではなくなったけど、恋人にはなってない。
大事にされている自覚はあったけど、フェイタンはもう、そうすることもやめてしまった。

(それはきっと私のせいだ。)

「帰るね」
「は?」


立ち上がって歩き出す。
フェイタンは追いかけてこなかった。
裸足のまま、駆け出てきた道を歩いて戻る。

「何だいその顔?随分と萎れてるねぇ」

ヒソカさんがついてきているが正直今は誰とも話したくない。

「それにしても、君がフェイタンをあそこまで振り回すとはね。クック、驚いたよ◆」

振り回す?
私、フェイタンを振り回したっけ。

「溶けるほど甘やかしても、泣かれる程いたぶっても、死なずに、勝手に歩いていく。まるで自分の存在なんて些細なものだと、錯覚してしまっても、仕方ないよねぇ◆」
「フェイタンは些細じゃない...」
「彼を選ばなかったのは君だろ?」
「何でヒソカさんがそんなこと言うの」
「だって君もうすぐ出ていくっていうからさ。ボクからのせ・ん・べ・つ」
「いらないのに」
「忘れたのかい?なまえ、君が僕のカードを拾ったんだ。あの日からずっと君は僕のオモチャなのさ」
「.......」

そうだ。あの日、ヒソカさんと初めて会った日に、私はフェイタンと友達になったんだ。
無理やり握ったフェイタンの手。
握り返してくれた時は、嬉しかったなあ。

「おや、泣くのかい?」
「.....ん」
「抱きしめようか?」
「いい」
「遠慮せずにおいでよ◆さあさあ」

夜で暗いしはだけて寒いし、足の裏は痛いし胸は痛いし。ボロボロ泣けてきたが私はヒソカさんの胸を頼らなかった。頼らなかったよ、フェイタン。だって辛い時傍に居て欲しいのも慰めて甘やかしてほしいのもフェイタンだけ。彼だけなのだ。

「う、うう.....っフェイタンがいい〜〜」
「おやおや」
「フェイ〜」
「アジトはアッチだよ◆真っ直ぐ歩きなよ」
「ひっぐ、フェイ〜」
「はいはい」

私は泣くばっかりで知らなかった。

私の足跡を辿るようにポロポロ落ちた薔薇の花弁を、フェイタンがずっと後ろから拾いつつ歩いてきたことを。

フェイタンが泣き疲れて眠った私のところへ来て、赤くなった目の下を二度、優しく擦ったことを。

なんにも知らなかった。