旅団での生活も残りわずか。
せっかくだから何か思い出に残るようなことをしようと思ってマチやらシャルやらを誘ってみたけど、こんな時に限って仕事があるらしい。
まあわがままは言えない。
じゃあフェイタンを誘えばいいと思うだろうが、そういうわけにもいかない。

何故なら、彼は最近少し変だった。

部屋にいるのに本も読まずぼうっとして、
かと思えばふらっとホームを出ていったり。
呼びかけても答えないことだってしばしば。

「ねー、フェイ.....どしたの?」
「なんでもないね」
「でもなんか変だよ?どっか痛いとこあるなら」
「しつこいね」

パリッとした冷たさに怯むと、フェイタンは少し動揺したように眉を寄せて私の頭を撫でた。

「.....最近、少し風邪ぽいだけよ。お前の能力使うまでもないね」
「フェイ」
「もう寝ろ」

その晩はフェイの戻らないベッドで丸くなって眠った。
いつもよりずっと寒くて、
私は、久しぶりに家族の夢を見た。

「なまえ」

お母さんが呼んでいる。
帰っておいで。そう言って手招きするお母さんは今まで見たどの表情よりも悲しそうにしていた。
その横には友達がいる。
陸上部の仲間達がいる。

皆、私を探している。

「なまえ」

すぐ側に誰かの息遣いを感じて、浅い眠りから目を覚ます。
窓から差し込む月明かりが照らし出したのは私にまたがるフェイタンだった。「フェ、」あれ。変だ。声が出ない。苦しい。首がしまってる。何で、何ーーフェイタン?

「がっ、あ.......ぐぅ」
「起きちゃたね」
「フ、ェ」
「し。.......人来たら困るよ」

まるで欠伸をするように、なんてことない顔で私の首を絞めるフェイタン。どれだけ身をよじろうが暴れようがビクともしない。

「なまえ」

遠のく意識の中でフェイタンが微笑んだ。、何度も何度も名前を呼ばれる。
なまえ、なまえ...
すきよ。

昨日の晩、私がなぞった言葉が、
フェイタンの口から零れるのを聞いた気がした。