「戻たよ」

部屋の扉を開けると、なまえの様子がおかしかった。
「?」
暗い部屋に足を踏み入れる。
起きている気配はあるのに、出迎える様子はない。いつも二人で寝ている布団にはこんもりと山が出来ている。

「.....下手な狸寝入り止めるね。起きろ」
「!」
ぴくんと布団が跳ね上がった。
しかし体を起こす様子はない。
もともとフェイタンは気の長い方ではない。眉をしかめたまま無理やり布団を剥ぎ取り、ーーーそして、絶句した。

真っ赤な顔で胸元を抑え、目にいっぱい涙を溜めてこちらを見上げるなまえ。
ナース服の襟首は引き裂かれ、指の隙間からは覆い切れなかった赤い痕がチラチラと伺える。彼女の周りには赤い薔薇の花弁が、まるで血溜まりのように散らばっていた。


「.........誰が、それした」

思いがけず声が震えた。
フェイタンの目にはなまえの首や胸元の痕ばかりが映り、酷く形容しがたい濁流が腹の底から湧き上がってくるようだった。
逃げ出そうとする彼女に素早く跨り、肩を押さえつけて問責の声を上げる。細い肩はたちまち軋むような音を鳴らした。


「早く、言うね.......。誰がオマエを、そなふうにしたか。殺す。殺す殺す殺す、殺す。ワタシが」
「フェ、い.....」

なまえの瞳から涙が零れ落ちた。
一筋、目の淵から伝ってシーツを濡らす。

フェイタンはなまえに跨ったまま、しかしぱっと手を離した。怖いのか、痛いのか、その涙の意図は分からない。ただ、自分の知らない所でなまえに触れた者がいると考えただけで、身を切るような怒りが身体を焦がすのだった。

やはりこいつを一人残すべきではなかった。
最早その者の死は間逃れない。

そう心してふらりと立ち上がりかけた時、なまえの胸に赤い薔薇が咲いた。

「あっ」

声を上げたなまえが慌てて胸を抑える。
花弁は後から後から、指の隙間を零れ出て、彼女の周りにまた薔薇の血溜まりを作る。
なまえは身を捩ってどうにかフェイタンの下から逃れ出ようとするが、それは叶わない。とうとう胸を押さえるのをやめて、なまえは両手で顔を覆った。

「フェイタン.........どうしよう、止まらないの」