日が西に傾き始めた。なまえとの待ち合わせの時間ももう間近だ。用事を済ませ、身支度を整えたフェイタンは暇潰し相手として連れ立っていたフィンクスと共にバーの一角に腰を据えていた。

「何だよフェイ、お前まだなまえの言ったこと気にしてんのか?」
「ハ?何の話ね」

不機嫌に尋ね返すフェイタン。
ビールジョッキを豪快に飲み干したフィンクスがワハハと笑う。今日の担当に含まれていないフィンクスは既に酒で出来上がっている。

「いやいや、わりーな!俺が男前なばっかりによー!」
「チッ。.....あなの冗談に決まてるね。今のお前 は小娘の冗談に踊らされてる可哀想な奴ね」
「誰が可哀想だ!!!そういうフェイこそさっきからアホかってほどイラついてんじゃねーかよ」
「当たり前よ。飼い犬に手を噛まれるより屈辱的ね」

別になまえに恋愛的な目線で見て欲しいわけではない。自分のアイツへ執着もほとんど所有物に対して感じるそれと同じだと分かっている。気に食わないのはフィンクスが調子に乗っていることと、嘘でも義理でもとりあえず好みのタイプはワタシということにしておかないあのアホだ。

「チッ、.....そろそろ行てくるよ」
「おー!帰りにここ寄ってくれー!」
「嫌ね。自力で帰れ」

それだけ言ってさっさとバーを出る。
なまえは既に会場の前に居た。
声をかけることを一瞬躊躇ったのは、制服姿か私服姿しか目にしたことのなかった彼女の化けように閉口したためだ。


「...........おい」
「!!び、びっくりした!」

大袈裟に振り返ったなまえがフェイタンを見て更に目を丸くする。それから数秒の間、二人して互いの姿を凝視し合う謎の時間が生まれた。

ワンショルダーのタイトなドレスを身に付けたなまえは普段は見せない体のラインを強調させ、薄く施された化粧も相まってどこから見てもいい女であったし、
白タイを指定されたフェイタンも、普段身につけることのない燕尾服で上から下まで紳士の装いを徹しており、二人が並べば人目を引くことはまず間違いなかった。


「.......ガキとは思えない仕上がりね」
「フェイタンこそ、なにそれ、素敵な紳士じゃん.....」
「ならいつもと同じよ」

絶句するなまえに曲げた腕を差し出す。さすがの彼女も察したようで、おずおずとそこに腕を通した。

「き、きんちょう、してきた」
「そなの必要ないね」
「でも失敗したら...」
「失敗も何もワタシ達ここいるだけよ」
「.....フェイタンいつも通りだね」

私はこんなにドキドキしてるのに、と俯きがちに胸を抑えるなまえを見て、フェイタンは微かに喉の渇きを覚えた。

「?」
「ん?どしたの」
「さあ。ちょと喉乾いただけね」
「えー、急に?何か飲み物とってこようか」
「いい。それよりワタシから離れるな」
「.......??」
「何ね」
「え、や、なんか私も喉乾いた。急に」
「.....おかしな奴ね。何飲みたいか。取てきてやる」
「えっ、い、いっしょに行くよ?」
「.......」
「.......」

(何ねこの空気)
(な、なんか、いつもと違うなぁ...。)


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キュンが喉にくる二人。