今の自分の姿を団員が見たら驚愕の末にまず自分の目と頭を疑うだろう。クロロでさえそうする気がする。
「私なまえっていうの。よろしくね」
「宜しくする気ないね」
こちらの杞憂など気にも留めず、ひょこひょこと進む小娘を睨む。
ペラペラとよく回る口と、生きている世界が世界なだけに見ることが稀な屈託のない表情のせいで、さっきから殺意が削がれてやまない。


「あ、沢田君だ。さーわだくーん!……あり?」
「フンお前嫌われてるか」
「そんな事ないと信じたい!」

マスクの下で笑うフェイタンの言葉になまえは正直少し不安になった。や、今明らか目合ったけど逸らされた!というか沢田君分かり易!

「怖かったのかな…」
「何ね」
「いえ別に」
「…あれお前の学校か」

フェイタンがアレと指差したのは住宅街の奥にチラりと見える白い建物。さっきの時点でチャイムは鳴っていたから遅刻は確定だ。うん、沢田君も。

「うん」
「早く行くいいよ」
「フェイタンも行こうよ」

ちょっとした提案はハァ?の一言で跳ね飛ばされた。

「旅は道連れ!」
「お前そればかね」
「せっかく仲良くなれたのに」
「これのどこが仲いいか」
「ケチ」
「…」
「無言で石拾わんといて!!」

校門が見えた。唇を尖らせたなまえがぴょんっとフェイタンから離れると、楽しそうににっこりと笑う。
対するフェイタンは口をへの字に曲げて不機嫌そうに顔を歪めた。

「お前歩けたか。ワタシ騙すとは良い度胸ね」
「早朝の一期一会を大切にしたくて」
「時間ムダにしてしまたね」

踵を返して去っていくフェイタンの背中を眺めていたなまえは咄嗟に口を開く。

「フェイタン」

親しげに紡がれた自分の名に、フェイタンは足を止めた。

「ありがとう!…またね!」

フェイタンは振り返り、感情の読めない表情で笑顔で手を振る少女を見やった。舌打ちが一つ。

「もう二度と会うことないね」
「ケチ!」

道端の小石を投げつけておいた。
初対面の生意気な小娘を殺さずにいるのは、後にも先にもこれきりだろうと思った。今日のは、気紛れね。