「何ね、……それ」

フェイタンは私の腕を掴んで目を釣り上げた。きっとそう言われると思った。「クロロさんの許可はとったよ」フェイタンのオーラが怒りに染まる。彼は私の手の甲の、蜘蛛の刺青を睨み付けていた。


「三秒以内に説明しないと命無いね」
「油性で書きました」
「下手糞な絵なんてどうでもいいねこの下手糞」
「二回言った……」

私が手の甲に書いた蜘蛛はフェイタンに擦られて一層惨めな有様になった。悲しい。

「一週間だけ、旅団に入れてもらうことにしたの」
「……どういうつもりね」
「恩返しがしたくて」

間違いなく本心だと、なまえの目を見ればそれは分かった。

「蜘蛛の皆に会えなくなるのはいやだけど、でも家には帰らなきゃ……家族がいるから」
「馬鹿が。その一週間で死んだらどうするね。会えるものも会えなくなるよ」
「だから、そこはフェイタン、私を助けてくれない?」
「嫌ね。そんなままごと付き合てやる道理ないね」

もはや苛立ちを隠すこともままならなかった。

団長がなまえの勝手な要望を通したことも、なまえが自分より先に団長に相談をしに行ったことも、勝手に全て決めて戻ってきたことも何もかも腹立たしい。
フェイタンが苛立ちながら踵を返した時、なまえの声がポツリと廊下に響いた。


「だって、フェイがもう二度と会えないっていうから」

フェイタンは足を止めた。
振り返った先でなまえと目が合わなかったのは、彼女もまた後ろを向いていたからだ。

「本当に二度と会えないなら……私が伝えたいことなんて一日じゃ全然伝えきれないから……。だから、クロロさんに時間をもらったの」
「……団長はタダじゃ動かない。かわりに何やったね」

「一週間後に、私の持ってる念能力全部」

それを聞いた瞬間、フェイタンはなまえの腕を掴んで自分の部屋へと引き込んだ。

「何、してる。馬鹿」

思った通り、ぽろぽろ涙をこぼしていたなまえの肩を掴めば、なまえはその額をフェイタンの肩に押し付けて「ごめん、」と謝った。
せっかく教えてくれたのに。褒めてくれたのに。ごめん。……そういう意味だとすぐにわかった。


「……あのチカラあれば、お前きと長生きできたね」
「だ、だって、残るなら、能力より思い出がいい…」
「ほんと……救いようない馬鹿が」

呆れたため息をついたフェイタンは袖で彼女の涙を拭うと、その肩に顎を乗せてもう一度考え込んだ。

(キケン≠ヘ、なし。)

人が多い場所も、
念使える奴がいそうな仕事も絶対させない。

それなら、平気だろうか

「……」

こいつ守りながら、手放すまでの残りの時間を、過ごせるだろうか。