明け方、ごそりとベッドから出た私は、フェイタンを起こさないようにこっそりと部屋から抜け出した。
向かった先は屋上だ。

「んー、気持ちいー!」


朝日がきらめくそこから見える景色は、旧市街、廃坑のつむじばかりだ。
ぐんっと、屈伸をした私は口元が笑むのを止められなかった。

(痛くない)


屋上のへりに向かって勢いよく駆け出した。
私は、空に跳び、空中で、真っ黒い何かに捕まえられて「!?」隣のビルの屋上に転げ落ちた。

フェイタンもろとも。

「……えええ」
「……」

フェイタンは目を見開き、私を見つめ、何と言っていいのか分からないというように口を引き結んでいる。
私の頭の下に片腕を敷いた、彼の向こうには晴れ渡る空がある。

「………え、ええ…フェイ……?」
「…………オマエ、何しよとした」
「何って……快気祝いにいっちょ隣のビルへ飛び移ろうと」


沈黙。
のち、鋭い舌打ちが落とされる。
その拍子にフェイタンの肩が下がったのも分かった。

「…………クソが。死ぬ気かと思たね」
「なんっ、なんで?」
私が死ぬ理由がどこに……。


今度こそフェイタンが黙ってしまったので、私は自分で考えることにした。

頭を過ぎったのは、昨日、私がフェイタンを手伝った時のことだ。
やれと言ったくせに、そう言えば彼はずっと固い表情をしていた。フェイタンは念を覚えたいと言う私にかなり反対してた。

私が、ああいう思いをする可能性があると知っていたから。



「……ふ、ふふ」
「何笑てるか」
「ごめん、でも、フェイが優しくて」

ねえフェイタン。私って意外と図太いんだよ。

「自分の痛みを人にあげたのに、今こうして走れるのが嬉しくてたまらない……。
私、結構酷いやつだよ。
フェイタンが心配するような、心優しい子じゃないよ」
「……そなの、ワタシだて優しくないね」
「でも私のこと助けようとしてくれたんでしょ?」
「ホームで死なれたら気分悪いから止めただけよ」
「ふふ!素直じゃないんだからぁ」
「余計なお世話ね」


私とフェイはその後、朝日の下で少しだけ他愛のない話をして、来た時と同じように屋上へ飛び移って(今度はフェイは邪魔しないでくれた。このくらいの距離なら全然ヨユーなんだけどね!)ホームへ戻った。


「あ、そういえばフェイ!」
「何ね」
「念覚えられたら褒めてくれるって……私まだ褒められてないよ!」
「そなこと言た覚えないよ」
「ええー!!ひどいっ!私それをご褒美と思って頑張ってたのに」
「……そなに褒めてほしかたか」
「そりゃもちろん!褒められて伸びるタイプです!」
「当分おあずけね。もと上手く念コントロールできるようになたら考えてやるね」
「わかった!じゃあその前に『なまえならできる!がんばれ!』って言ってくれる?」

期待を込めて見上げると、フェイタンは僅かにためらったあと口を開いた。

「……オマエ、才能あるよ。きとも少し強くなれる。…やれるだけやてみるといいね」


(おお、思いのほか嬉しい)

「…へへ、おうとも!頑張っちゃうよー!」