「……な、にこれ」
「きと、なまえの能力ね」
「うわ!!フェイ!」

いつの間にか部屋に入ってきていたフェイタンが私とバラを見つめて言った。

「オマエの足、もう痛くないはずよ」
「……!!ほんとだ」
「痛みをオーラに変えて、花のカタチで出現させる……ハハ、ワタシの力とちょと似てるね」
「……このお花どうする?」

フェイタンが目を細めてにやりと笑い、手を差し出してきた。

「それきと使えるね。渡した相手に痛み移せるよ」
「え!じゃ、じゃあ渡せないよ!」

私は急いでバラを背中に回した。

「でもどうしよう……いったん戻す?」
「できるのか?」
「やってみる」

バラを足に押し付けた。
包帯に吸い込まれていった瞬間、びき、と音がして痛みが蘇った。

「いたい!!折れた音がした!!」
「……つまり、今のチカラ『強制治癒』の一種ね。痛み戻せばまた折れるてわけか」
「う、うう……」
「なまえ、その能力でもう一回、今度はお前の全部のケガから花咲かせるね」
「花咲かじいさんか私は……」

ぼやきながら、言われた通り花を抜き出す。足から1本、腹部から3本。
怪我の度合いによって色が違うのか、腹部のあたりから抜き取ったバラ達は赤色をしていた。


「試しにやてみたいことあるよ」
「フェイタンに痛い思いさせるのはいやだよ」
「安心するね。ちょうど今下に、情報吐かせたいネズミがいるね。そいつに使うよ」
「…………」
「何躊躇てるか。オマエがそれ使わなくてもけきょくワタシが痛めつけるから同じよ」

フェイタンが幻影旅団の拷問係らしいと知ったのはつい最近だ。


「まあ見るのが嫌なら貸してくれたらいいね」
「貸し借りできるのかなー、これ」

試しに一本フェイタンが摘むと、それはたちまち彼の指先に吸い込まれていってしまった。
眉を寄せたフェイタンの指がぱきりと音を立てた瞬間、私は大慌てでその指先から痛みのバラを引き抜いた。
「ごっ、ごめん、フェイ…ッ!!大丈夫、じゃないよね折れたよね今!ほんとごめんなさい……!」
「煩いね。あんなの痛いうちに入らないよ。でも、これで人を介して使うの無理て分かたよ」


その後、自分の痛みを拷問に使うことに大反対した私はフェイタンと言い合いになった。
ベッドの上に放置していたバラの花が徐々に赤く変わっていったのに気付いたのは、15分ほど経ってからだ。


「だから絶対嫌だって、………………あれ?バラの色が変わってる!」
「能力のタイプがワタシと似てるなら、ソレ、時間経てば経つほど強さ増してくね」
「……与える痛みが大きくなるってこと?」
「かもね。ほら、早くそれ持てついてこい」

しぶり続ける私に、いい加減面倒くさそうなフェイタンは言った。


「オマエがその痛み貸してくれたら、下のヤツ殺さずに帰してやるね」

どっちがましか、なんて、平和ボケした私に選択を委ねたフェイタン。ようやく足を動かした私は間違いなく偽善者だった。


「…………そな顔するな。もう頼まないよ」

念を覚えたことを一番初めに後悔した日、誰よりも悔やんだ顔をしていたのはフェイだったかも知れない。