こうしてフェイタンに運ばれるのはもう何度目だろうか。


店先で戦争でも起こしそうなほど緊迫した空気(ヒソカさんは引くほど楽しそうだった)をかもし出していた二人。
腕と口が動くようになった私は、一生懸命ことのあらましを説明した。

自分の醜態が恥ずかしくてヒソカさんに気分転換に連れていってもらおうとしていたこと。フェイタンのオーラなるものが怖くて逃亡したこと。あ、お腹をまさぐられていた件に関してはなんの弁解もできなかった。


するとフェイタンはヒソカさんから私を奪うように手を引いて、歩き出した。

「早く来るね愚図」
「ああ……久々に罵られた。っいて、」
「チッ」


私が足を痛がる素振りを見せると、フェイタンはこちらに背中を向けて屈んでくれた。

「お、おんぶしてくれるの」
「気に食わなければ引き回しの刑でもいいね。足出せ」
「お背中お借りします」


フェイタンの背中におぶさると、フェイタンの匂いみたいなのがしてなんとなくドキドキした。
(おかしいな、ヒソカさんにおんぶされてた時はなんともなかったのに)

「お前の怪我、治たわけじゃないね。麻痺させて感覚馬鹿にしてるだけよ。だから無茶すればすぐまた酷い目あう、…………おい、聞いてるかオマエ」
「え、あ、ごめんなに?」
「………………」
フェイタンが不機嫌そうに眉を寄せて、指をぱちんとした。
「ぅあ゛っ!!!」
突然襲ってきた身体中の痛みに、フェイタンの背中で身を縮め、喉の奥で悲鳴を漏らす。
どっと汗が噴き出して痛みに喘ぐ。

「これが本来のお前の痛みよ」

「フェ、いた、んッ……いた、い、!っ…!!」
「勝手に動き回た罰ね。暫く我慢してればいい」
「う、うう……」

酷い。ひどすぎる……。
しかし涙を滲ませながらも、思いのほか自分が重症だったことを知った。
自然治癒力ぱねえとか思ってた奴はどこのどいつだい私だよ!!!もう!全然治ってなかったよ!

騒ぐと怪我に響くと潔く理解した私は、なるべく浅い呼吸を繰り返しながらフェイタンの背中にしがみついていた。
実際この体制もきつい。

「フェイタン…………ッ」
「……」
「っ、……ごめん」
「……」
「ごめんなさい……ぐす、」

フェイタンは路地にするりと入り込むと、重ねてあった木箱の上に私を座らせた。「腹、触るよ」もう声を出すのもつらくて、力なく頷く。


存外あたたかい手がするりと腹部に当たる。
そこがじんわりと熱くなったかと思えば、痛みは少しずつ引いていった。

ああ、私フェイタンにこんなに助けられてたのか……知らなかったなぁ……。
彼の肩に頭を預けながら、私は深く息を吐いた。



「反省したか」

ずきんっずきんっ、という痛みが、ツキンツキンに変わった頃、フェイタンがまだ少し怒りの尾を引かせた声色で尋ねた。

「ん……ごめん、フェイ」
「ヒソカは頭のイカれた奴よ。迂闊に近付くな」

こくんと一つ頷きながら、どっと押し寄せてきた疲れを吐き出す。
その時、視界の端で持ち上がったフェイタンの手が私の後頭部を撫でた。
一度、二度、
路地を抜けていく風が気持ちいい。

「…………」
「…………ハ?おい寝るななまえ」
「……ぇあ…、ごめん、なんか安心しちゃって」
「ふざけたヤツね」

フェイタンから逃げてきたはずなのに、変だなぁ、私。