「ひ、ヒソカさん!ちょ、まって!!」
「んー?なんだい」
「はやっ、はやい!スピード出しすぎ!」
「君が逃げろって言ったんじゃないか◆」

私はヒソカさんにおんぶされた状態で、太い首に腕を回しながら首をかしげた。あれ?逃げろなんて言ったっけ私!

「ちが、と、とにかくあの部屋から一旦距離を空けたかっただけなんだけど」
「そうなのかい?」

ヒソカさんはひとまず足を止めてくれた。
さっきまで風のように流れていた景色がようやく景色として目に入ってくる。ここは旧市街だった。

「うわー、初めて来た……。ここ、私の街から三時間くらいはかかるんだよ」
「で、どうするんだい?ボクとしては逃げた方がいいと思うんだけど」
「なんで?」

ヒソカさんがくるりと顔を後ろに向かせて言う。

「フェイタンがキミが居ないのに気づいて怒り狂う前に……て、もう遅いみたいだけど◆」


ざわざわざわっ……

「っ!!」

背後からとんでもなく重苦しい気配を感じて、私は振り返ることも出来ずヒソカさんの肩にしがみついた。
ガチガチと歯がなる。
気を抜いたら意識を失いそうだ。

「……フェ、…い?」
「まだ来てないよ。これは彼のオーラさ」


ヒソカさんがにたりと舌なめずりをして笑う。

オーラ……なにそれ。
わからないけど、まるで背後に立たれたようなこの不吉の影がフェイタンの仕業で、それが私が居ないせいで怒ったものだとしたら……


「ひ、ヒソカさん!」
「なんだい」
「全速前進!!面舵、にげろーー!」
「オーケイ◆」









そういうわけで到着した最寄りの街。
休日だということもあってか、人の往来も激しく街は賑わっていた。

「ヒソカさん、もう下ろして大丈夫ですよ」
「でもキミ足痛いんじゃないのかい?それに肋骨も折れてるって聞いたんだけど」
「それが、全然痛くないんですよ!!」

私は長らく疑問に思っていたことをようやく追求できるチャンスを得て、マシンガンのようにヒソカさんに説明した。

「マチさんの話しじゃ、足だけじゃなくて内蔵も結構やばかったって聞いたんですけど、足以外痛いところいっこもなくて!私、自分の自然治癒力がこんなに人間離れしてるなんて知らなかった!」
「ちょっといいかい?」
「何です、う、ひゃぁ」

ヒソカさんは、背中におぶっていた私をひょいと片腕で前に回してお姫様抱っこに持ち替え、店先の椅子に片足を置いて私を安定させると、あろうことか片手で服の中をまさぐり始めた。

「ちょ!!何してんですかこのスケベ!」
「ちょっとお腹をさわるだけさ◆いいじゃないか、減るもんじゃないし」
「よくないよ!?こちとら歩くブランドじぇーけ、んん!!?」

じたばたもがいていると、突然腕がひとまとめにくっついてヒソカさんの首に回された。唇も、上唇と下唇がくっついて声が出せない。

「バンジーガムさ。美味しくないよ」

いやなんの説明!?

「うんうん、なるほどナルホド◆」
さわさわ
「んーっ!んんんー!」
「フェイタンの纏だね。痛みを感じないように内蔵や神経を保護してる」
「んん?」
「そ、これも能力の一つさ◆」
さわさわ
「っん、……んん、んー!」
「でも足だけはマチの治療以降何の処置もされてない。大方、キミが逃げないようにわざと放置してるんだろうけど」
「そこまでね、変態野郎」


あ、魔王降臨した。