フェイタンが部屋に戻ると、ベッドの上で膝を抱え、ボタボタと涙を流すなまえが居た。

「フェイタ、ン」

呼び声は弱々しく、ひどく悲しげだ。

フェイタンは真っ白になった頭を無理矢理覚醒させ、ベッドに駆け寄った。

「何かあたか、なまえ」

おかしい、
さっきここへ寝かせたときは、気持ち良さそうにすやすやしていたはずだ。
まさか自分のいない間に、不審なピエロ野郎なんかが忍び込んでこいつに何かしたのではないか、一人勝手に想像を膨らませたフェイタンは殺気立ったが、なまえが突然腕に抱きついてきたので思考はまたもや真っ白になった。

「夢、ひっ、夢みたの」
「……夢?どんなやつね」

フェイタンが尋ねると、なまえは言いにくそうに押し黙り、しばらくしてようやく言葉を落とした。

「フェイタンが、山賊に殺されちゃう夢」


なまえにとって山賊との出来事は、簡単には忘れることの出来ない苦い思い出となって脳裏に刻み込まれてしまったようだ。
フェイタンはそう気付くと同時に、胸の中に奇妙な歓びが湧き上がるのを感じた。

そうか、なまえはワタシが死んだらこうやて泣くのか。


誰かに惜しまれたいと考えたことが無かった訳では無い。
ただ、それはもうずっと昔に忘れた願いだったはずだ。

こいつは月夜の晩、
話したこともない生徒の死を悼んで泣いていた。

これじゃ、あいつと一緒だ。

それは不服だと、それでは物足りないと、フェイタンの中で欲深い何かの声がした。

「なまえ」

フェイタンは彼女の傍に寝そべり、彼女の手を両手で握った。

「もと、近くにこい」

もし次同じような夢を見た時、
今度は全ての気力を失うほどの絶望に襲われるくらい、もっとずっと近くに。

「もとね。」

お前なら、許してやってもいいよ。

「フェイタン……」

無垢な涙の粒が溜まったなまえの目尻を、フェイタンはべろりと舐めて笑みを浮かべた。

「大丈夫。ワタシ、そんな簡単に死なないね」


だから安心して、
もっと心を開くといいね。

他の奴に見せたことないくらい深く
お前の奥を覗いてやるから。


「……安心して眠るいいよ。
明日はまた、いつも通りね」