「団長で良かった、か」

何を思ってそんなことを口に出来たのか、そんなものは考えるまでもないだろう。
彼女は面識のある自分だったから、あなたでよかったと言ったのだ。他意のない、無責任で無作為な言葉。

しかしクロロはその言葉を受けて、僅かに、救われたような心地になったのだ。


「変な子ね、あの子」
「パクノダ」
「私達をちっとも恐れない」

なまえと意気投合したのは意外にもウボォーで、(きっかけはなまえ行き付けの定食屋が、ウボォーが今最もキテる肉料理を出す店だったことだ。)
ということで、なまえの歓迎会と称して開かれた宴会でノブナガやウボォーに勧められた酒をグイグイ飲み進めた彼女は、あっさり潰れた。終始止めていたフェイタンはそれ見たことかこの愚図がとなまえを回収していき、今に至る。

「あ、フェイ戻ってきたぞ!俺の勝ちだ」
フィンクスが声を上げた。
不機嫌そうに眉を寄せるフェイタン。
「勝ちて何ね」
「お前がここへ戻ってくるか、それともそのままお楽しみにもつれこむかこいつらと賭けててよ」
「馬鹿か。あんな鶏ガラ好みじゃないね」
「着痩せしてるだけでしょ。オレあの子結構胸あると思うよ」

クロロはフェイタンの目が、余計なことを言うなとシャルに告げるのを見た。

「お前が執着なんて珍しいな、フェイ」
「団長までからかうつもりならワタシ部屋戻るね」
「からかってるんじゃない」
クロロは手にしていた本を伏せて告げた。

「初めて会った時からあの子に才能を感じてな。お前がいいなら治療の片手間念の修行でもつけてやれば」
「あいつには無理ね」
「おいフェイ?」
フェイタンは腰を落ち着ける間もなく、酒瓶を手に扉へ向かった。

「あいつは虫も殺せないよ」


部屋を出ていくフェイタンの背中に、クロロはそっとほくそ笑んだ。
(俺にはお前が「殺させない」と言ってるようにしか聞こえないが、フェイ)

「……団長、からかう気満々じゃない」
パクノダはため息をついた。

「…そりゃ、俺もたまには団員の浮わついた話の一つ二つ聞きたい」

「お?何だよ団長、言ってくれれば俺らが話してやんのによ!」
「そうだよ。フィンクスはさておきオレなんてモテるから肴になる話結構あるよ」
「おいシャル、それどういう意味だ!!」
「お前たちのは荒んでそうだからいい。」

こうしていつものように、旅団の夜は更けていった。ある一部屋を除いて。