なまえと団長が知り合いだったらしい。その衝撃事実はその場に居た全員、特に、フェイタンの脳内を揺るがしていた。




「え、じゃあクロロホルムさんって偽名だったの?」
「ああ。本当の名前はクロロ=ルシルフルだ」
「難しいな………ロロルルルですね。覚えました!」
「その覚え方で覚えられるのか?」
「クロロ=ルシルフルさん」
「やるな」

なまえにとってもっとも難航するだろうと予想できていた団長が知り合いだったということで、他の団員と意気投合するのにはもうほとんど時間を要さなかった。

「なまえ、お前何故団長のこと知てるね」

フェイタンの問いかけに、なまえは口を開きかけてつぐむ。一度クロロの方を向いて確認をとったなまえに、フェイタンは何故か苛立ちを感じた。
肩をすくめてGOサインを出したクロロにも。

「去年の学園祭で、うちのクラスの出し物プリン専門店に来てくれたの!」


しかし、理由は思いの外くだらなかった。

「それで、最後の大目玉イベント『黄金のバケツプリン争奪戦』で見事優勝!彗星のように現れて賞品のプリンをかっさらっていった我が校の生ける伝説だよ」
「団長、アンタ何してんの……」
呆れたように呟くマチ。
そこへシャルが質問を重ねる。
「争奪戦って具体的にどんなことするの?」
「腕相撲だよ!」
からから笑うなまえ。団員全員の大人げねえ!というツッコミを受けてなお涼しげな顔をして「あれは絶品だった」と微笑むクロロである。



「そっかあ、クロロさん、幻影旅団の団長さんだったんだ。そりゃ誰も勝てないわけだよね」
「悪い。加減はしたんだがな」
「いえいえ、喜んでくれる人の手に渡ったんだから文句ないです!」

なまえは、ねっ、と言って側に居たフェイタンに話を振った。そんななまえの無事な方の爪先をぎゅっと踏んで、なまえがもんどりうっているうちにクロロに詰め寄る。


「団長、なまえのこと知てたか」
「いや、だが一目見て思い出した。初対面の時に随分驚かされたからな」

くつくつと、思い返すように笑うクロロに、面白くないと眉を寄せるフェイタン。そんな彼の服の裾を引いて「ねえ、フェイタン」と声をかけるのはなまえだ。彼女は何も言わなかったが、フェイタンは十分に察したらしい。団員達の方に人差し指を向けた。

「あの金髪がシャル、変なの被てるのがフィンクス、ちょんまげがノブナガよ」
「ふむふむ」
「で、あちの女がマチね」
「え、美人のひと?かわいいほう?」
「は?……髪長いほうね」
「わかった。」

立ち上がったなまえは、クロロの前でひょこりとお辞儀をすると、夏日の太陽のような笑顔を浮かべて口を開いた。

「クロロさんが団長さんで良かった。怪我が治るまでの暫くの間、どうぞ宜しくお願いします!」

それから自分の足を治療してくれたマチと、瀕死のところを発見してくれた三人に一人ずつお礼を言って回ったなまえは、持ち前の人懐っこさを存分に発揮し、蜘蛛の中でそれなりに(主に度胸と強運を)認められた存在に変わったのであった。