「は?フェイタンが部屋で女に腕枕して寝てる?何寝ぼけたこと言ってんだよシャル」
「いやほんとなんだって。俺も見たときは、驚いたんだけど。……思ったよりフェイの奴入れ込んでるみたいだね」
「入れ込んでるって?誰が誰に?」
「それがよー、例の女子高生が今フェイタンの部屋で……」

というようにホームにはなまえとフェイタンの噂が一夜にして広まった。
ちょうど仕事の切れ目で暇をもて余していた団員達は、昼頃起き出してきたフェイタンに積め寄って、見せろ会わせろの大騒ぎである。

「煩いね。あいつは絶対安静よ」

「そうケチくせェこと言うなよフェイタン」
「マチは会ったんだっけ?」
「治療する時少しね。でも意識なかったし会ったうちには入らないんじゃない?」


今ホームにいるメンバーの中でなまえの姿を見たことがあるのが、シャル、ノブナガ、フィンクス、マチ。そして写真を見たことのあるのパクノダたけだった。
なぜか一人会ったことも話したこともあるヒソカは用事があるとかでふらりとホームを出ていった。

「フェイタン。俺も彼女に少し興味がある」


そう溢したクロロの声に、フェイタンは僅かに眉間にシワを寄せた。
振り返り、彼の次の言葉を待つ。


「彼女が起きたらここへ連れてきてもらえるか」

そんなもの、団長命令だと言ってしまえばいいものを。あえてそれをしないクロロの底意地の悪さにうんざりしながら、フェイタンは「分かたよ」と低く了承した。



***

「フェイ」
私の声に振り返ったフェイタンは、少し驚いたように眉を浮かせた後、意地悪そうに目元を歪めた。

「お前緊張してるか。柄にもないね」
「う、うるさいな……」

いくら人見知りはしないとは言え、幻影旅団。(さんざんフェイタンに脅かされたこともあって、)私の心臓は激しく高鳴っていた。
「入試を思い出す」
「それ大して大したことないね。早く入れ」

連れられた部屋は広々と、そして閑散としていた。
積み上げられた木箱や何かの上に腰かけた、恐らく団員の方々。その中心に座している人物が、団長だろうか。

松葉杖を付きながら進み、ふと足を止める。
「?………なまえ、どしたね」
団長……?
ん?

私は松葉杖をフェイタンに託し、折れていない方の片足でけんけんをしながらそのオールバックに近寄った。彼との距離残すところあと1メートル。
ああああ!!!と叫びながら彼の前に辿り着いた私は確信した。

「くっ、クロロホルムさん!!!!」

こんな無様な姿の私でも全力で警戒されたらしい。
各々武器に手をかけていた団員さん達(フェイタン含む)が、は?といった表情で固まる。
唯一おかしそうに肩を揺らしているのは、団長もとい、クロロホルムさん。

「なまえ。久しぶりだな」

彼の顔に手を伸ばし、オールバックを手櫛で崩す。
思いの外やわらかい髪が額にかかり、現れたのはやはり、あの日出会った伝説の男だった。