あまりの激痛に悲鳴を上げて跳ね起きると、クリアになった視界のあちらに見覚えのあるピエロの姿。
「やあ◆ おはよう」
頭が事態の収集に追いつかない。
ぱくぱく口を開閉して固まっていれば、それまで頬杖をついて私を眺めていた彼が不意に腕を伸ばした。「つんつん」「ぎゃーー!!!」ーーーこれだ!激痛の正体は!

「怪力なんちゃって紳士ピエロ!!!」
「ちょっと長いくないかいソレ」ツッコミながら身体をのけぞらせた彼の、頭のあった位置を何かが薙ぎ払った。
「ち、外したか」
「フェイタン!」

そうだ。私ひどい怪我をしていたのを、フェイタンに助けられたんだった。
いつぞや私の手錠を断ち切った、刀身の細い刀は今ピエロに向いている。

「まったく危ないじゃないか」
「ワタシの居ないとき狙て入り込んで、何するつもりだたか」
「ただの世間話さ◆」
「フェイタン、ここは…?」

コンクリが剥き出しになった壁からは、隙間風がぴゅうぴゅうと入ってくる。
秋の初めと言えど、明け方はわりと寒い。(…明け方だよね?たぶん)

「ワタシ達のアジトね」
「…ん?秘密基地的な?」
「全然違う」
「もしかしてフェイタン、君、彼女に何も話してないのかい?」
「まだ居たのか」
「さっきからずっと居るじゃないか◆」
「ととと立ち去るね。…次、なまえに余計なこと喋たら命無いと思え」

二人の間に一瞬の沈黙が流れる。殺伐とした、なんて表現は少々生ぬるく、私は思わず息を潜めてしまった。
「クク、分かったよ◆そう殺気立たられると興奮しちゃうよ」
ヒソカさんから溢れ出ていた嫌な気が不意に途切れた。ああ、今のが殺気というやつか、置いてけぼりの思考回路はそんなところで動き出す。あと、ヒソカさんはやっぱり変態くさい。

「お大事に◆」去り際に一言残し、彼は部屋を出て行った。



「……なまえ」
フェイタンの声。

「……怖かたか」

「、や……大丈夫」
ヒソカさんが去って、フェイタンの殺気も消えて、すぐに汗が吹き出した。呼吸を詰めていただけのつもりが、身体は想像以上に機能を抑えていたようだ。
かたかた震え出す腕を押さえて、ベッドの真横に立っていたフェイタンを見上げる。
フェイタンは感情の読めない目とかちあった。

「……なんか私、餌の気分だった」

フェイタンが噴き出すのを見るのは、これが初めてのことだった。