死にかけのなまえを見た瞬間、血が巡るより速く全身に駆け巡ったのは沸き立つほどの怒りであった。
「誰が、したか」
フェイタンの怒気に当てられて即座に臨戦状態をとったシャル他二名は、口々に否定した。

「落ち着けフェイ!」
「その子はその状態で倒れてたんだよ。山賊に連れて行かれる途中だったらしい」
「何故こいつがここにいるね。住んでる場所もと遠い街よ」
「移動中に襲われたんだろ。この先に事故ったバスがあったからな」
「……」

フェイタンは殺気を収め、腰を屈めて袋に手をかける。しかし、むっと漂う血の匂いにその手を止めた。
「……」
刀を袋に差し込み、なまえの肌に刃が触れないよう注意を払いつつ袋を切り裂けば、フェイタンの細い眉はぎゅっと眉間に寄せられた。


「酷ェ怪我だな」
ノブナガはなまえの足を見て呟く。
「どうするの?フェイ」
「……バスの奴らは生きてたか」
「いや、全員殺されてたよ」



「………そか」

一度瞑目したフェイタンは、数秒後に深く息を落とした。マントの中から注射器を取り出してなまえの腕に差し込む。
「シャル達盗品持てくね。ワタシこいつ病院運ぶよ」
「病院?アジト連れてきゃいいだろ」
マチが居るんだしよ、フィンクスの提案に口を挟んだのはシャルだ。
「無理だよ。その子、内臓もかなり壊れてるから」
「そうなのか?」
「多分ね。あと肋骨も二、三本折れてる」
「……団長には後で連絡するね」
それだけ告げてなまえを抱え、フェイタンはざっと闇に消えた。

「……まさかフェイがあんなに取り乱すとはな。悪ィことしたぜ」
「相当大事にしてんな、ありゃ」
「とにかく戻ろう。内臓はともかく、足はマチが治した方が綺麗に治るだろうから」