仕事が明け方までかかり一睡もできなかったフェイタン。さながら住所不定無職な彼らがするように、公園の木製のベンチの背もたれにだらりともたれていた。
すると疲れ切った彼の耳に、叫び声に似た声が聞こえてくる。

「……何ね」

薄く目を開けた彼は声の出どころを目線で探し、そしてパッと体を前かがみに折りたたんだ。

「ぅゎぁぁぁぁあああ!!」
「!!」

ベンチの後ろの急な下りになった雑木林から一台の自転車。と少女。フェイタン自身が身を屈めていなければ間違いなく後頭部は粉砕していたはずだ。

フェイタンの居るベンチをまるっと乗り越えてダンッ、と地面に着地した前輪、再度浮上し、今度は後輪が激しくバウンド。
「ぎゃんっ」
ブランコの周りを囲う黄色いポールに自転車は衝突し、少女はポーンと空中に投げ出された。
そしてそのまま地面に背中から落ち、後頭部をしこたまぶつけブランコに片足だけひっかかる無様な状態で、公園はまた静けさを取り戻す。正直なところ、フェイタンは一瞬拍手しかけた。


「いででっ……死んだこれー」

砂埃が晴れる。
半ば戦闘態勢で腰を低くしていたフェイタンと、仰向けな少女の目がばちりと合った。

「わ、不審者」

「こちの台詞ね」