黒革のソファに腰かけて携帯の画面を睨みつけているフェイタンを、フィンクス達は遠巻きに眺めていた。
「なあ、アイツ何してると思う?」
フィンクスはフェイタンから目を離さずに周りに尋ねた。
「さあ」
「呪いの練習とかじゃない?」
ケラケラ笑いながら言うシャルもまた視線は自分の携帯画面だ。
ハイテクがなんだ。フィンクスは内心で唾を吐く。
「携帯相手にか?ちょっと見て来いよ、シャル」
「オレ?やだよ」
「じゃあパク」
「いやよ。」
「お前らあいつが心配じゃねェのか?」
「「別に」っていうか、フィンクスだって暇なだけでしょ」
「バレたか。」
隠す気もないらしく、フィンクスは立ち上がってフェイタンのもとへ歩き出した。結局自分で行くんじゃん、という二人の心の声など、彼には届いていない。

「おいフェイタン、何やってんだ?」


そもそもフィンクスさえ騒がなければ、特にフェイタンの行動を気に留める者もいなかっただろう。
というのも、ここが他ならぬ「蜘蛛」という組織で、各々に自由な時間が許されている中、普段から静かなフェイタンがその日も静かに自分の世界に入り込んでいた。という大前提があるからである。旅団とて、メンバーに無関心なわけではない。


「おい、フェイ」
「!」

ソファの後ろに立って呼びかけるとピクッとフェイタンの肩が跳ね上がり、拍子に彼の手から携帯が零れ落ちた。
その一連の動作さえ盗賊稼業で気配に敏い彼らからしてみれば只事ではなく、しかもフィンクスは床に落ちたその携帯画面を目にしてしまった。

それはもう、晴れやかに。
見るからに幸せいっぱいな満面の笑みでこちらにVサインを向けている少女。

驚愕して言葉を失ったフィンクス。
フェイタンは何事もなかったかのようにそれを拾い上げ、ピッピッと操作を始めた。
――「削除しますか」
――「は

「待てェェェエ!!」
「何ね。返せ。」
「何消そうとしてんだよ!」
フェイタンから携帯を取り上げたフィンクス。フェイの眉間にしわが寄る。

「私の勝手ね。何故止めるか」
「いやダメだろ!何か分からんが!」

二人のやり取りに、彼らの周りにいた団員たちも集まり始める。

「うわー、すごい純粋そう」
「へえ…可愛い子ね」
「おめェのタイプこんなんだったか?」

囃したてる周りの声を耳障りに感じながら、フェイタンはさっさと画像を消しておかなかったことを激しく後悔した。
何の事はない、なまえに携帯を貸したら待ち受け画面がこうなって戻ってきたのだ。
悪戯を成功させた子供のように満足げに笑うなまえから取り返した時と同じように、マチのところまで回っていたそれを奪い返した。

「で。誰なんだソイツ」
「…なまえね」
ただの、生意気なクソガキよ