店を出ると、フェイタンは私の腕についた残りの輪っかをバキリと素手で断ち切った。正直ビビった。
「最近、怪力ブームきてるの…?」
「何ねそれ」
違うらしい。


店を出た私達の頭の上を鮮やかな鳥が一羽飛び去り、春の日差しをいっぱいに浴びた木々の群れへと潜り込んでいく。
拍子抜けしそうなくらい穏やかな春日の午後。

「フェイ」
「…」

斜め前の彼はなかなか振り返らない。

「フェーイ」

「…何ね」

「フェイタン」

「だから、な…」

鬱陶しさわ隠しもせずに振り返ったフェイタンに手を差し出す。細い釣り目が少し見開かれた。

「友達になろうよ」

フェイタンは自分を年上と言っていたけど、だとしてもそんなに離れてはいないはずだ。まあ歳はあんまり関係ないけど。
私はまだフェイタンをよく知らないけど、きっと友達になれたら楽しいーーなりたいんだ。私が。

「…フェイ?」
「…」




フェイタンは差し出されたままの手を前に、ひたすら固まっていた。
「…」

――蜘蛛のメンバーは仲間だ。
それに逆らう者は敵。
その他は他人。

家族を持たないフェイタンにとって自分と自分以外の人間との関係はそれのみだった。

「ワタシは」

友達。何ねそれ。
鼻で笑えなかったのはなまえの顔があまりにも真っ直ぐだったからだ。
しかしフェイタンは直ぐに考え直す。
自分は盗賊だ。
必要とあらば…無くとも、人を殺す事に躊躇などしない。
親しくもない友人が死んだと、月の晩に一人泣く様なこいつとは違う。

「お前なんかと友達なる気ないね」

どんな顔をするだろう。


気まずげに手を下ろすのだろうか。
悲しげに顔を俯かせるのだろうか。
傷ついたように笑って見せるだろうか。それとも、また、泣くのだろうか。

しかし、なまえの次の行動は、フェイタンの考えるどれとも違っていた。

「!」

袖の中に隠していた指先が、暖かい掌に探り当てられる。


「私は、ある!」


堂々と自己中発言をするなまえ。その晴れやかな表情に一瞬ほっと胸がゆるんだ。
「…」
それがどうも癪に障り、傘の先端で奴の膝小僧の絆創膏をつついてやった。情けなく悲鳴を上げて悶える生意気な小娘の手をさりげなく握り返したのは、まあ、気紛れに他ならない。

(勝手な奴ね、オマエ)
(よく…言われる)
(はは)
(ぐ…このきちくっ!)
(よく言われるよ)