「さあ、じゃあボクはそろそろ行くとするよ」
「さよなら!」
「そう嬉々として言われると苛めたくなるんだけど」
「!…さよなら…」
「そんなに寂しいのかい?かわいい子だね」
「結局…」
「ボクの番号登録しておいたから、いつでもかけておいで」
「いつの間に!」
「じゃあね」
「は、はあ。……ええええ!」

私は慌ててヒソカさんを呼び止めた。
取ってくれないの!チェーンをガチャガチャ揺らしてみると、思い出したようにポンと手を叩いた。

「コレね」

ひょいとどこからか取り出した鍵を持って私の前に戻ってきたヒソカさんは、コインが如く鍵を指で弾き、右手に収めた。

「どーっちだ」

な、なめてんのか!

「こっち!」
私は迷わず右を指す。薄く笑ったヒソカさんが開いた右手には何も入っていなかった。
「ハズレ。正解は」
「!!」

――ポチャ

メロンソーダの上で開かれた左の拳から転がり出てきたのは鍵だった。しかも、有り得ないくらい小さく丸められた鍵。
最早これが何の意味も持たない事は私にもよく分かった。
ヒソカさんは紳士なロマンチストではなく怪力ドSなロマンチストであることもよく、分かった。

「じゃあ、なまえ。またいずれ」

フェイタンに宜しくね、去り際にそう囁いて立ち去っていく彼の背中を、私はただ茫然と見送るのだった。(いやほんとどうすんのこれ…)