何や、よう分からんがあの転校生がなかなか手強いらしい。
俺としては、そんなんに好き勝手されて太刀打ちできてないあいつらもあいつらやと思うけどな。
「亜里沙、心配せんで全部俺に任しとき」
「ゆうしぃ……!」
「俺がちゃんと痛い目見せて来るわ」
というのが、二時間前の話。
俺は人気のない体育用具室で、何故かミョウジの腹筋に付き合っていた。
「いっち、にー、いっち、にー」
「……」
「いっちにー、いち……あれ、今何回?」
「知らんがな!!!!」
あーーーこりゃ無理やわ何が無理ってツッコまずにスルーすることが無理!!
ちょっと遡って三十分前。合同体育の時間。
「なあなあ、俺ミョウジさんに話あんねんけど」「ん?いいよ!」「ほんじゃちょっとそこの倉庫まで付き合うてくれる?」「いいよ!」
アホかっちゅーほど簡単に付いてきたバカ女。
ほくそ笑んだ俺は、後ろ手に鍵を閉め、ホコリ臭いマットの上に彼女を押し倒した。
「げほごほ……!ちょ、どうしたの忍足?」
「……ほーんま、アホやんなぁ、ナマエチャンは」
「え、今転んだの私のせいじゃないよ?」
「誰も転んだ話してへんわ。つか、どう考えても今は俺が押し倒したやろ」
「あ、忍足だけに押したり引いたり?ふふ」
「いてまうでホンマ」
俺はハッとした。あぶない。危うく奴のペースに巻き込まれるとこやった。
一つ息を吐いて頭を冷やす。
「忍足?」
「……」
改めて見下ろすそいつの表情に、恐怖や警戒の色は皆無で、ただ深く澄んだ碧眼がこちらを見上げているばかり。
ずくりと胸の中で、支配欲にも似た奇妙な感覚が首をもたげた。
(あかんな……。軽い気持ちで襲ったろ思ってたけど、ハマったらシャレにならんわ、これ)
「……なあ、何で自分、今こんな状況になっとんのか分かっとる?」
「…………忍足がおっこちょちょいだから?」
「色々ちゃうわ。てか、その頭悪そうな交わし方もうせんとき。……俺、無駄なこと嫌いやねん」
ミョウジの喉がゴクリと鳴り、初めてその瞳に焦りの色が浮かんだ。ああ、なんや、自分ほんまはもう分かっとるやんけ。
「覚悟、できてんねやろ?」
「……」
彼女は小さく頷くと、俺の手にそっとやわらかい手のひらを重ねた。
目を見開いたのは俺の方。
ミョウジはそのまま俺の手を、自分の脚の方へと誘った。短パンの裾から惜しげなく晒される白い柔肌に指先が触れる。
「……い、いい、よ」
潤んだ瞳に、震えた声。
俺は顔が熱くなるのを誤魔化すように眉を寄せ、「淫乱が」と笑って囁いた。ええで、自分がそのつもりなら、俺も「イイーーーッチ!」とまあそういうわけであるクソが。ほんまもう、クソがッ!