「このお花、誰がやったの?」
花瓶にささった菊を指差して、ミョウジが訪ねる。表情から心を読み取る事は出来なかったが、その声は震えていた。
(しかしミョウジから漏れ出る威圧感は、パジャマの威力で半減もいいところである。)
「お、………俺だぜ」
さっきまでの空気が嘘みたいに張り詰める。
ミョウジは俺を見つめると、花瓶を手に取ってこちらにやってきた。(水でもぶっかける気か?それともソレで殴んのか?)
「着いて来て。」
警戒する俺の腕を、ミョウジは握った。
***
「だーかーらー、違うって言ってんじゃん!」
「……。」
――あれ
何やってんだ?おれ。
「一番きれいな花が真ん中に来るようにするんだって。」
「…何でだよ」
「何でって…キレーだからだよ。」
「ちっげーよ!!」
俺は持っていた花を地面に叩きつけながら立ち上がった。
「何で俺が授業サボってお前とこんなことしなきゃなんないんだよ!」
そもそも氷帝の敷地内にこんな花畑があった事に驚きだ。なんでもありか!クソクソ跡部め!
えー、と不服そうに声をあげたミョウジは、俺が落とした花を拾い上げた。
「だって向日の生け花気に入んなかったんだもん」
「アレ生け花じゃねーよ!」
「一輪挿しだとしても不十分。さ、ほら座って」
俺を無理やり座らせたミョウジは、瓶に丁寧に花を差し込んでいく。
表情が見えるように。下向きはだめ。高低差と色の配分を考えて。水の量はこのくらい。枝と草の位置はこう。
しぶしぶミョウジの言う通りにしていれば、やがて花瓶は最初とは比べ物にならないほど華やかになった。
「…」
俺が嫌がらせの為だけに買った、あの黄色いのは、真ん中にいる。
「ほらさっきよりずーっと綺麗になったでしょ?」
「…うん」
「これ教室の後ろにかざろーよ!あ、あのクラス美化委員とかいんの?もしくはイキモノ係!いなかったらあたしがやるからいいんだけどさ」
「……お前さ、花言葉とか知ってる?」
突然訪ねた俺に、一瞬きょとんとしたミョウジは遅れて頷いた。
「じゃあさ…」
菊を指差す。
自分から喧嘩、売ろうとしてんのに、
「…――これの、意味は」
何でこんなに、心臓、うっせーんだろ。
「知ってるよ」
ミョウジは笑った。
色とりどりの花に囲まれながら、春のうららかな陽気の中で、それこそ、花のように。
「高潔」
「そう、誇り高く、清い者にこそ相応しい花」
俺の前髪をかきわけて、
そっと唇を押し付けた。
おまえ、ミョウジがなんて言ったか知りたい?
ありがとう、だって。
「……ちきしょう」