「くそ、あいつバカだから絶対来ると思ったのに」
「まさかバックれやがるとは…!!」

昼休み、校内を駆け回る男子生徒数人。目当ての人物は当然ミョウジナマエだ。
皆さんご察しの通り、彼らはナマエに例の手紙を出た人物である。奴に亜里沙をいたぶった事を後悔させてやろうと一計を案じていたわけだが、どうも来ない。いつまで経っても来ない。しまいにはお腹が鳴り出す始末。

「ぜってェ探し出して痛い目見せてやる!」
「…しかしいねーな」
「あの野郎どこに隠れてやがるんだ」

その辺にいた生徒に手当たり次第尋ねて回ると、目撃情報は多数上がった。



「売店で菓子パン大量買いしてるの見た」

「誰か探してみるみたいにキョロキョロ歩いてたぜ」

「図書室の前で、家庭科部の試食会ポスターながめてよだれたらしてたよ」

「階段ところに座ってた」

「職員室前で榊先生と喋ってた」



最後の目撃情報のあった職員室前にも向かったが、そこに奴の姿は無い。
「先輩……あいつ俺達から逃げる感じじゃなさそうですけど」
「俺も思ったぜ、いくらか余裕こきすぎだ!絶対忘れてる!」
「話の流れ的に、あいついったん休憩してるしな」
「もう戻りましょう、あいつ来ないし、俺達も腹が……あ!」

廊下前方に、一旦見たら目に焼き付いて離れないくらい綺麗な銀髪を捉える。
(奴が黒髪おさげのかつらを失くしたというのは、亜里沙の噂が流れるより先に全校生徒に知れ渡った事実だ。あいつが異様なほど落ち込んでいたのを覚えている)

「いた!」
どこか落ち込んだように丸まったその背中に向かって彼らはバッと走り出した。渡り廊下に差し掛かり、いよいよ捕まえられそうな距離になった途端、「…なっ!!」彼女がふっと、「き、消え…ッ」

「…いってぇえぇ…誰だよもうこんなとこにバナナの皮捨てたやつ」


消えていなかった。しかし一瞬彼らの視界から消えたんは確かだ。
どうやら盛大に転んだらしい。

散らばる菓子パンと今にも泣きそうに震えた背中と転がったバナナの皮を見て、流石の彼らも勢いを落とす。
だが、彼らとて亜里沙を護るため、こうして昼休みを削っているわけである。
大丈夫か?と尋ねそうになったのをぐっとこらえる。

「お、おいテメェ!!」
廊下に座り込んだナマエが、振り返って彼らを見上げる。
光の差し込むガラス張りの渡り廊下で、彼女のその仕草は男達の胸をブチ抜くには十分な効果を発揮していた。

く、くそかわいい
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