虚夜宮の廊下をグリムジョーは足音を立てて進んで行った。す、と長い影が行方を遮る。

「人間の小娘にご執心だって?聞いたぜェ」
「…ノイトラ」

苛立たしげに目の前の男を睨む。


「テメーには関係ねェ」
「カリカリすんなよ!聞いてみただけだろ?なァおい、どんな奴だよ」
「…不細工」
「あ?」
「弱小。頭が悪ィ。胸もねー」

それだけ言ってグリムジョーはさっさと足を進めた。あんな野郎に興味をもたれると厄介だ。それに面倒だしな。


「不細工、なあ」

クック、と喉を鳴らしながらノイトラは遠ざかる背中を眺めた。





****



教室に入れば冷たい視線が突き刺さる。いつもの事ではあるが、やはり居心地は悪い。

「もう授業は始まってるんだぞ!」
「すいません」

でもだってグリムジョーが…。なんて事は言ったところで伝わる事は無いんだろうな。だって私だって未だ夢心地なんだから

グリムジョーのお陰で和らいだ心は、私に少しの余裕をくれたらしい。


私と視線を交えた黒髪の転校生、朽木ルキアは訝しげにこちらを眺めてまた顔を前に戻した。いつもは我関せずといった様子の彼女が初めて見せたそれには意味があるのだろうか。



「一護」
「…何だよ、ルキア」
「今…」
「?」
「いや、何でもない」

(一瞬だけ虚の匂いがした気がしたが…気のせいか)



授業も終わりさっさと教室を出ようと立ち上がると、目の前に桜子が立ちふさがる。
肩を縮めて震えを堪えるように両手をきつく握って。そして涙をいっぱいに溜めた瞳でこちらを見上げた。

「なまえちゃん、あたし…なまえちゃんに何かしたかなぁ」


ご丁寧に。あたしがさっき質問した言葉をそっくり返された。良くも演技でそこまで出来るものだと、ある種感心してしまう。

「うん。たくさん」
「ふざけんじゃねー!桜子散々苛めといて何言ってんだよ」
「外野は黙ってて」
「んだとっ!?」
「やめてよ啓吾君!私の為に、傷、ついてほしくない…」
「なに言ってんの?」


思わず聞き返してしまった。だって余りに可笑しすぎて。本当に傷付いて欲しくないなら、どうして啓吾達にこんな事を言わせるの?

「啓吾達を傷付けたくないんだったら、あたしに近付かなければ良いんじゃないの?」

言った途端、右頬に熱い痛みが奔った。
オレンジが視界の端にちらつく。


「なまえ、お前今桜子がどんな気持か解かってんのかよ!」
「い、ちごこそっ」
「俺はお前の気持なんて」
「違う!一護こそ、今自分がどんな顔してんのか解かってんの!?」
「、」

「あたしを殴って傷付いてる一護なんて見たくない!そんな辛そうにするんだったら、あたしなんかに関わらないで、あたしなんか…、見ないでよ!」

一護の瞳が揺れた。

堪え損ねた涙が一滴頬を流れた。私は桜子に向き直りはっきりと言葉を紡ぐ。


「あんたがどんなに汚い手を使おうと、あたしは折れない」

一瞬だけ桜子の顔が歪む。それから桜子は大粒の涙を流して近くにいた男子生徒に擦り寄った。

「ひどいよぉ、なまえちゃん…私はただ」
「テメェ変な言いがかり付けんじゃねーよ!桜子が一体何したってんだ!」
「外野は、黙ってて」

繰り返された言葉に、男子生徒はうっと詰まる。


「偽善者ぶるのもいい加減にして。アンタ達が誰を信じようが信じまいが勝手だけど、後で後悔しないようにね」

冷たいだけの言葉を投げかけて、なまえは教室を後にした。
桜子のすすり泣く声が教室に響く。


「…んだよ、アイツ!」
「いきなり調子にのりやがって、ふざけんじゃねーよな」
「感じ悪くなったよね」
「やっぱ桜子いじめてるってバレちゃったから猫かぶる必要なくなったんじゃん?」
「あ、確かに〜」


暴言の渦に巻かれながら一護は動く事が出来なかった。
あいつが変わった…?
良く考えろ、あいつはどんなだった…。

いつだって目的に誠実で頼もしく、よく笑い。過ちに気付いた時は怒った。
いまのように。


変わって、ない


じゃあ変わったのは俺達か…?何故、いきなり桜子に手を上げるようになったんだ。いやその前にアイツが一度だって桜子を殴った事実を肯定した事があったか…?


「一護。私は今のこのクラスの状況は全く解からん」
「…」
「だが、あの娘が嘘を吐いているようには思えんな」

井上もイツキも桜子を傷付けたなまえを純粋に怒っている。それでいて何処か信じたくないと心で否定して…。
ルキアは前を向いたまま、語りかけるように言葉を発した。

「あの娘の言うとおり、誰を信じるかはお前自身が決める事だ…黒崎一護。

見誤るなよ」

後悔するのは自分なのだから。と
アイツの言った言葉が正論としか思えなくなった。わけ、わかんねえよ…

おれはどうしたらいい。
誰に訪ねればいいのかも、俺にはもうわからなかった。
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