人間は臆病者だ。他者と比べる事でしか自分を図れず、その相手すら妬み傷付け、そうしておきながらも独りになる事を恐れる。虚弱な生き物。
――消し飛んじまえばいい。
そうすればふるいにかけられたように弱者はいなくなる。強者だけの世界になりゃ、ちょっとは生きやすい世の中になるじゃねぇか。そんなことさえ分からねぇ人間なんてやっぱいなくなりゃいいんだ。

「…」
建物の屋上に、死にかけの女を見つけた。
多分こいつはもう少しで死ぬんだろうと思った。俺がそう思うほどにこいつの周りの空気は死の色に染まっていたからだ。


「…あ?」

だが、数十秒後にそれは色を取り戻す。



「負けてなんてやらない」


女の呟きが耳に入った時、俺は女の瞳が凛と輝くのを見た気がした。





口角が上ずる。欲しい、な…こいつ。人間にしておくのが惜しいくらいだぜ。
屋上を吹き抜ける風に揺られた黒髪を見て、その想いは一層強くなった。俺は地を蹴ってフェンスに降り立つ。ばち、目が合った。


「え。だれ」
「…お前俺が見えんのか」
「うん」
「人間だよなァ」
「うん。て、お腹…穴空いてますよ」

間抜けた事を間抜けな面で言ってのけるこの女から恐怖は見て取れなかった。
僅かながら発せられる霊圧を感じる。
これで俺の事が見えた理由も頷けた。


「…で、あなた誰ですか。そんなとこに乗ってると落ちますよ。落ちたら、死にますよ」
「俺より遙かに死にそうな面してるやつに言われたくねェな」
「…あたし、そう見える?」
「ああ」
「困ったな…これから授業戻ろうと思ってたのに」

しょぼくれたように呟くのを俺は遠巻きに眺めた。変な奴だな…こいつ。最初は驚いていたふうだったが今は俺の存在を気にも留めなくなったようだ。
そうされているにも関わらず不機嫌にならなかった俺は女に訪ねる。

「お前の名は」
「なまえ…望月なまえ。あなたは?」
「…グリムジョー」
「人間?」
「馬鹿言え、そう見えるかよ」
「見えない」

へらりと笑みを浮かべて俺に向き直る。青色の瞳が一瞬揺れた。


「グリムジョーさん。お話付き合ってくれてありがとう」
「…あ?」
「久々にまともな会話ができて嬉しかった」

最後に女は、なまえ は本当に嬉しそうに微笑んで
もう一度ありがとうと言って屋上を後にした。残された俺は、閉じられた扉を暫く眺めてから、立ち上がる。

この学校には黒崎一護がいる。
俺の霊圧は押さえてあるから限りなくゼロだ、気付かれてはねェだろう。


「なまえ…だな」

どうも俺は、あの深い青色が思いのほか気に入ったらしい。
それに今手放すのは確かに惜しいな
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -