桜子と初めて会ったのは、小学生の時。
俺は、天使って存在するんだなと真剣に思った。風に揺れる髪も、真っ白い頬も、全部が人の目を引いた。
桜子は弱かったから、花梨や柚子と同じように、俺が守ってやらねえとって、そんなふうに、当たり前に思ったんだ。


なまえとは、中学に入ってから出会った。
公園で高校生にいじめられてるガキを見て、飛び蹴りで突っ込んでいったのを見たのが始まりだ。
鼻血を手の甲で拭って立つ姿は凛々しげで、ガキに向ける笑顔は優しくて、その時も俺は目を奪われた。


「一護!」


守ってやりたいとは、特別思わなかった。
けど、いつも目を離せなかったのはーーー。からから笑うなまえの笑顔。走るたびに流れる黒髪。彗星みてえに、その輝きを気付けば目で追ちまってたのは、俺がこいつに憧れていたからなのかもしれない。



(だから、落胆したんだ。こいつが、くだらないことをする奴だと分かったから)


「優しくしなくていいし、労わらなくていいし、癒さなくていい。私はもう、一護たちにそれを求めてない」


なまえにそう告げられた時、その目を見て、理性とは別の部分が強く衝撃を受けた。
失望された、と、遅れて焦りに襲われる。

背後のテレビ画面には、俺たちの知らない桜子が、俺たちの知らない顔で、いつまでも、なまえを罵って嘲笑っている。


「ーーーーーし、信じられるかよ!!」
「そうだそうだ!」
「お前みたいなやつの言葉なんて誰が信じるかよ」


なまえは何も言わない。
画面は移り変わり、体育館裏へ。桜子の後ろ姿だけしか映っていないが、声はしっかりと入っているようだ。

『あたしね、昨日……一人で帰ってたら、知らない人たちに襲われて……っ、それで』

そこで桜子は泣き崩れた。隣にいる誰かに縋り寄る。

『……望月なまえって子の命令だって…うっく、ひ……あ、あたし、初めてだったのに』
『随分と……非道な真似しくさるやつがおるもんやな』
『どうしよう。こんなこと、皆に言えないっ、私、汚くなっちゃって、』
『大丈夫。大丈夫やで、桜子チャンは汚くなんてなってへん』

『…任せとき。俺がそいつにも、同じ苦しみ味あわせて来たるわ』


俺は、はっとしてなまえを見て――息が止まった。


俺達の視線が画面に注がれているというのに、自分は直ぐ足もとを睨みつけて両腕を組んでいる。なまえの顔は青ざめていて、その仕草が震えを抑え込むためなのだと気付いた時、俺は本当に自分を殴りつけたくなった。


画面の中では、誰かが桜子の頭をひとなでし、立ち去って行った。それでもまだ桜子の背中は映っている。
やがてそれは小さく震え出し、やがて本性を現した。



『フフ、…アハハ!!…これであの女ももう、立ち直れなくなるわ』

クラス全員の視線が。

『メチャクチャになるまで犯されれば、いいのに…!』

学校中の視線が、集まる中で。

『そんで、最後はボロボロのまま、死んじゃえ…!!!』

画面の中桜子が振り向いた。
その笑顔は、

「――――…ああ、醜い」

ルキアの声だけが、しんと静まり返った教室に響きわたった。
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