やわらかな夏の日差しが窓から差し込んでくる。
気怠さと、身体の微かな軋みを感じながら身を起こせば、すぐにベッドに引き戻された。
いくな。
寝起きの掠れ声が、少し不機嫌そうに言う。
枕に顔を半分埋めたグリムジョーが、私の腰を片腕で捉えながら、うっすらとこちらを見た。
「……朝からチョロチョロ、動き回れるほど、手加減してやった覚えはねェんだがな」
「っばか!」
真っ赤になってクッションを投げた。クッション越しにくぐもった笑い声が聞こえてくる。
昨日、グリムジョーは、私が驚くくらい優しく身体に触れてくれた。
名前も知らないあいつの痕跡を、一つ一つ丁寧に拭って、あの痛みと嫌悪を、視界が明滅するような快楽と、心ごと溶けそうな愛情で塗り替えてくれた。
おかげさまで、私はもう大丈夫だ。
私は心臓のあたりがきゅうっとして、グリムジョーの胸に額をこすり付けた。
愛おしさで、幸福で、苦しい。
昨日雨に打たれていた時、自分にこんな明日が来るなんて少しも思っていなかった。絶望は全部、グリムジョーが優しさに塗り替えてくれた。
「グリムジョー」
呟くように名前を呼んだ。
「私、今日で終わりにするよ」
グリムジョーが微かに目を見開いた。
「正直、証拠はまだまだ不十分だし、集まりきってないけど、もういいや。今持ってる全部をぶつけて、私の気持ちにケジメをつける」
そうすれば、私もやっと進める気がする。
「そしたらね、」
「グリムジョー」
「今度は私の未来ぜんぶ、あなたにあげ、うわっ」
布団をはぎとったグリムジョーが、腕の中に私を閉じ込めた。
「……言ったな」
頭の上から声が聞こえる。
「こっちに帰りてェって言っても、二度と帰れねぇ場所に、お前を連れてくが……いいんだな」
強まった腕の力に、応えるように無理やり顔を上げる。
乱れた水色の前髪の隙間から、グリムジョーの真剣で、どこか不安げな目がこちらを見下ろしていた。
きっと、彼は待ってくれていたんだろう。ずっと。
私が答えるのを。
私は微笑んで頷いた。
「いい!」
また頭を抱えられ、今度こそ離してもらえそうにない。
グリムジョーが嬉しそうに笑っている気がした。
「ならすぐ終わらせてこい。俺は気が短ェから、今日終わんなかったら明日には拐う」
こんなふうに優しく囁かれるだけで私の気持ちは真っ白いシーツのように伸び広がる。ほんの僅かにあった不安のわだかまりさえ、消えて無くなった。
「がんばる」
グリムジョーは満足そうに口角を上げて、私の頭をいつものようにくしゃくしゃ撫でた。
今日で終わらせるんだ。
桜子の始めた、このくだらない戦争を。