泣き疲れて、鉛色の空を見上げる。
雨はいつの間にか止んでいた。私の涙も枯れ果てたようだ。
全身から力を抜いてその場に足を投げ出す。


「……はあ」


夜がきたら機械的にベットに潜り、瞼を縫い付けるようにつむって、朝が来なければいいと願う。
それが無くなったのはいつからだろう。
そんな事をおもむろに考えていると、私を真っ黒な影が覆った。


「ギイイイイイイ!!」

なに、これ。
紫がかった緑色の体に牛の様な角。胸には真っ黒い穴が空いていて、一瞬グリムジョーが脳裏に浮かんだ。
何もできずに固まっていると脇腹に衝撃がはしる。

「、っ!!」

尾で弾き飛ばされたようだ。壁に背中を打ちつけて、鋭い痛みが襲う。
もう一度狙いを定めてきたそいつから咄嗟に逃げるも足が震えて言う事を聞かない。もう、死ぬかもしれない。


「助けて」

ああ、こんなときにも頼ってしまうのは



「助けて…、グリムジョー…!」

紫色の尾が振り下ろされた途端、目の前を赤い閃光が過った。化け物は虚空に響く叫び声をあげて消えていく。


「無事か、なまえ」
「…なんで」

目の前にあるのは、見慣れた水浅葱

先程自分が拒絶して、同時に死ぬほど焦がれた相手



グリムジョーは真っ直ぐ私に手を差し伸べてきた。あれほど傷付けたのに、悲しませたのに、それなのにグリムジョーは私を助けてくれた。



「諦めようと、思った、けど…さよならしようと 思ったけど、やっぱり

ちょっと…――無理っぽい」

だってこんなにもあなたが好きでしかたないのに


「じゃあ離れなきゃいい」
「ダメだよ、だってあたし…もうきれいじゃな」

言葉の続きはグリムジョーのそれに塞がれた。前の一瞬触れるだけのものじゃなくて、角度を変えて何度も。息が続かなくなってくるまで、ずっと。


「、は…グリ」
「綺麗だ」

私を抱きよせたまま、私の瞳に視線をじっと合わせて、グリムジョーは囁いた。

「テメェの思ってるよりも、ずっとテメェはキレイだ。あの野郎に触られても、それでも変わらねェ!」

何で知ってんの、とか。沢山解からないことは会ったけど、グリムジョーの言葉が、グリムジョーの言葉だけが、鼓膜を震わせた。


「…っ、迷惑だとか思ってないよ」
「たりめーだ」
「あたしグリムジョー好きだもん」
「わかってる」
「グリムジョーが人間じゃなくても、あたし別にいいんだったの」

この気持ちに変わりはないんだから


ごめんね。ありがとう、大好き。あと、あいしてる。
言いたい事を全部言ったらグリムジョーは私のおでこにキスをひとつ落とした。彼らしからぬ優しいそれに驚いていると、いつもの照れたような怒り顔で「帰るぞ」ってそう言ってくれた。
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