雨音が幾重にも重なる中で、なまえは静かに泣いた。それと気付かれないように、嗚咽を飲み込んで。
「…あ?何、言ってやがんだ」
「復讐も全部一人でやるから」
「お前」
「もう。私に近付かないで。迷惑だから、ここにも来ないで」
たえきれそうにない
「もともと、オカシーじゃん!破面とか死神とか…あたし人間だし、そんなの関係ない」
「じゃあテメェは俺を裏切るのか」
「…」
「死神との戦いで勝っても負けても、帰る場所作って待っててくれんじゃ、なかったのかよ」
「…っ」
このひとの、こんなに辛そうな表情を見ているのは
「テメェを、殺してやってもいい」
お願い
「今この場でその魂引きずり出して切り刻んでも構わねェ」
そうしてほしい
「だが俺がそうしねェのは。俺が一瞬でもお前を
――おまえのことを、あいしてたから」
行っちゃう。グリムジョーが、今度こそ本当に手の届かない場所に…!
去っていく背中に手を伸ばした。
行かないで。ここに居て。ひとりにしないで。言いたかった沢山の気持ちを、言葉になる前に飲み込んだ。
くるしくて
くるしくて、死にそうだ。
グリムジョーの足音が聞こえなくなって、気配も完全になくなってから私は泣いた。
声を出さずに、泣いた。
だって私よりずっとグリムジョーの方が苦しいに決まってる。グリムジョーにあんな悲しそうな表情をさせたのは紛れもなく私だ。
「ごめん、ね…グリムジョー」
照れたように笑った表情が
真っ赤になって慌てる表情が
優しく、真っ直ぐな瞳が
記憶に焼き付いて離れない。
迷惑なんてうそだよ。復讐だって、私一人じゃきっと成し遂げられない…。あなたがいなきゃ、そうする意味すらなくなる。
モノクロの世界をパレットに、大空のような色を広げてくれたのはあなただった。
今も探しに来てくれたあなたを見た瞬間に、自分でもびっくりするくらい安心した。
抱きしめてほしかった。
キスもしてほしかった。
愛してるって
飽きるほど囁いてほしかった。
「ごめんね、グリムジョー…愛してたよ、あたしだって」