胸騒ぎがした。どうしてか、早くあいつのもとへ向かった方が良い気がした。
「どうかしたのかい、グリムジョー」
「…別に」
早く話を終わらせろと気持ちを込めて藍染を睨む。
それに気付いているのか気付いてないのか、どちらにしろ藍染はゆったりと紅茶を啜っている。
「(なまえ)」
この胸騒ぎが、気のせいであってほしかった。
***
くたりと意識をうしなってしまったなまえの服を整えると、平子はベットの横に立ち上がった。
頬に残る涙の痕が余計に気持ちを際立たせる。
それに気付かぬようにして、やわらかい瞼にひとつ口ずけてから保健室を出た。
「あ、シンジだぁ!」
「…桜子」
「どぉしたの?具合、悪いとか?」
「…いや何でも無いねん」
桜子が近寄った時に香る甘いにおいが好きだった。それでも今は、きっと今だけは、それを煩わしく思う。
さっきアイツの首筋に顔をうずめた時、ふと香ったのは僅かに甘い、それでいて胸が締め付けられるような切なさを漂わせるものだった。
「かんにんなァ、桜子。俺やっぱ体調悪いみたいやから今日は帰るわ」
「ほんとぉ?大丈夫?わかった、おだいじにねぇ!」
「おう」
俺、何してんねんやろ…。
ガシガシと頭を掻いて、雑念を振り払うように歩き出した。なまえの綺麗な青色の目にはきっともう光は映らん。そう思うとやはりチクリと胸は痛んだ。
そうさせたのは自分なのに、勿体無い気すらした。
「あかんわ……、忘れな」
間違ってへん。おれはきっと間違ってへんねん。
なァ…そやろ
―――…桜子。