そろそろ藍染に呼ばれる頃だな、グリムジョーは苦々しくそう言っていた。私はあいぜんと云うひとの事は全く知らなかったし、さして知る必要はない気もする。

グリムジョーが虚圏というところに行くのを見送ってから学校に来たら、丁度2時間目の最中であった。

「今から教室顔出すの、めんどいな」


下駄箱ではたと立ち止まって考えを巡らせる。屋上にでも行こうかな…。
再び歩き出して保健室の前を通った瞬間。いきなり腕を掴まれて無理やり中に連れ込まれた。私は警戒心を尖らせてその人物を見やる。


「誰、何のつもり」
「せっかちやなァ、自己紹介くらい言われんでもするつもりやったで?」

ひらこしんじ、や。にんまりと笑みを深めてその男は言った。

「離して」
「そりゃ、あかんわ」

掴んだ腕はそのままに、ぐいと引き寄せられる。左腕の痛みに顔を歪めれば、そいつは愉しそうに私を組み敷いた。いよいよ、本気で焦りが迸る。

「アンタも可愛い顔して、やることえげつないなァ」
「…?」
「桜子から聞いたで?そこいらの男共に金払うて、桜子の事レイプさせよとしたらしいやん」
「は?」

嘘吐くにしても、そりゃちょっと無いんじゃないの。それをまんま鵜呑みで信じる方もどうかしてる。私は自分に跨っている人物をまっすぐに見抜いた。


「あたしはそんなこと知らない」

そいつは一瞬手をとめた後、すぐにまた口を開く。

「信じられるかい、そんなもん」
「ちょっと離してよ!」
「できひんて。俺今からお前犯すねん…じっとしときィや」
「…っやだ!」
「どうせ初めて、っちゅうわけやないやろ」

ぐ、と言葉に詰まる。経験はからきしだがそれを自分の口から言うのは気が引けたのだ。だが平子はそれをYESととったらしい。
両腕をまとめ上げて、するするネクタイを外していく。

「やだ、やだ!離してよっ」
「やかァしーな…」

平子はなまえのワイシャツのボタンに手をかけてひとつずつ外していく。すべて外し終わってから、平子は再び手をとめた。

「なんやねん、この痣」

外からは見えないところについた痛々しい痣。ふと一瞬できた油断を見逃さずになまえは平子の腹に蹴りをいれる。
だがすんでのところで足首を掴まれてそれは適わず、平子の顔にはまた狂気じみた笑いが浮かんだ。


「ま、別にどうでもええねんけどな」
「っ」
「人んこと影で苛めるような女、俺嫌いやねん。せやから優しくはでけへん…ええな?」
「、最低」
「どっちがやねん」

首元に口ずければ、なまえは身を固くして横を向いた。泣くのを堪えているのか、口はきつく結び、目を閉じている。
どんなに行為を推し進めても、なまえは快感も痛みも声に出しまいとしていた。

「我慢せんでもええやろ、誰も居らんねん」
「死、っね」
「…ハ。良い度胸やなァ」

試しに唇に噛みついてみれば案の定逃げようとしたので、顔を押さえてそれを拒む。窒息寸前まで追い込んではなしてやると、なまえは思い切り咳き込み、おそらく朦朧としている意識の中で俺を睨んできた。死に際の様な荒い息遣いと艶やかに濁った青に、ぞくり、背中が疼いた。


「ええなァ…あんた」

最後には桜子の事なんか頭から離れて、なまえだけを犯した。痣だらけの体も綺麗に感じるほどに。
平子はそっと、口もとに貼り付けた笑みを取り去る。

最後くらいちゃんと顔を見てやろうと思うと、初めてなまえが泣いていた事に気付いた。苦しげに眉をしかめて、口の端から洩れる息と共に、掠れたアルトは言葉を紡いだ。

「たすけて」

ずっとそう言っていたのかもしれない。何度も何度もくりかえし…。
なまえは綺麗な涙をシーツに染み込ませながら嗚咽を漏らした。苦しそうに。悔しそうに。悲しそうに。

「ごめ……なさい、グリムジョー」


俺はこの時初めて、
罪悪感に殺されそうになった。
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