「おい、望月。ちょっと顔貸せよ」
「…やだ」
「んだと?」
「わざわざ殴られに行ってあげる程バカじゃないし」
「ふざけてんじゃねーぞ!」

名も知らない男子生徒達のうちのひとりが大きな声を出すものだから、先程からクラスの視線が痛くてかなわない。
視界の端で、桜子が小さく笑ったのが分かった。

「…いいよ」
「あ?」
「はやく、いこ」

さっきまでじっと黙ってこちらを見ていた一護が立ち上がったものだから私は焦って廊下に出る。いきなり態度の変わった私に対応しきれていない男子生徒達を引っ張ってさっさと廊下を進んだ。

「それで?どこ行けばいいの」
「あ、た、体育館裏に決まってんだろうが!」
「決まってないから」

今更何粋がってんだか。
振り返って、一護が付いてきていないことを確認する。私は桜子の前で一護と話をする事はもうしない。巻き込みたくなんか、無いから。


「相変わらずお人好しだな、テメーはよ」

ばっと後ろを向くと、肩をすくめたグリムジョーがそこに立っていた。

「な、何でいんの。一護達にバレちゃうよ」

前を歩く彼らに気付かれないようグリムジョーに囁くと鼻で笑われた。

「霊圧は消してあんだ。心配ねーよ」
「でも」
「おら、前向け」

言われた通り前を向くと、先程の男子生徒達に加え、5人ほどの生徒がこちらに敵意を向けた視線を投げかけていた。

「情けねェ野郎共だな。女一人相手にこれだけの人数たァよ…」

尤もである。


「また桜子泣かしたらしいじゃねえか!」
「テメー何度言や解かんだよ」
「もうアイツに近付くんじゃねー!」
「…ばっかみたい」
「んだとォオ!?やっちまえ!!」

あーあ、あたしってば思った事が口に出すぎ。こんだけの人数相手じゃさすがに無傷でってわけにはいかなそうだ。
どうしたものか、と考えを巡らせていれば、グリムジョーの手が肩にかかった。

「俺の言うとおりに動け」
「わかった」

迷っている暇はなさそうだ


「右足重心。しゃがんで地面に片手ついたら左足を真っ直ぐ突き出せ」

その後もグリムジョーの言う通りに動いていたら10人弱居るうちのほとんどを倒す事が出来た。感心するほか無い。

「っくしょー!!」
「ざけやがって!」

頭に血が上ったらしい数名が刃物を取りだしてきたものだから、さすがの私も焦って右上を見る。グリムジョーは残忍な笑みを口元に浮かべ、前を向きながら私の頭を撫でた。

「交代してやる」
「グリムジョー、殺しちゃダメだよ」
「……チッ」

風が脇を吹き抜けたと思ったら数秒後には、ナイフを持った男子生徒も伸された他の生徒達と共に地に伏せていた。

弱ぇ弱ぇと呟いて、グリムジョーは首を鳴らしながらこちらに向かって歩いてきた。

太陽を隠していた雲が風に慄くと薄暗い体育館裏にも光が差し込んで、もう随分と見慣れた水浅葱をきらきら光らせた。

「怪我、ねぇな……なまえ」

私が大きく頷いて笑顔を向けると、グリムジョーも満足そうに笑った。
まだがんばれる。そう思った
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