「っくォの」それに続く怒声は大よそ見当がついていたので、私は両手でバッと耳を塞いだ。両手首が掴まれる。「あ!」そして耳から距離が開く。


「ファッキン方向音痴!!!」
「あひー!よー兄!耳がおかしくなりそーです!」


事の発端は、時を少し遡った所にあった。


阿含さんは私を家に送り届けると、何か言いたげに門の前で私を見下ろした。また「情報提供料」とか言って舐められるか最悪食べられるかするかも知れないと警戒していると、うんざりしたような溜め息が落とされた。


「そこまで警戒されてちゃ何もできねェだろ、カスが」
「しなくていいんだよ!糞ドレッド!」
「…よう。シスコン野郎」
「ぎゃひー!よー兄に何てことを!」

阿含さんの後頭部に銃を突き付けて笑うよー兄はやはり悪魔のように見える。おっかないことこの上ない!そしてご近所からの苦情とか色々きそうだから止めてくださいお兄様!


「迷子の妹さんを保護してやった俺に礼の一言もねェのか」
「ほー…迷子か。あいつには後で俺からきっちり叱っとく」
「(殺られる!)」
「で?テメェ何のつもりだ。言っとくがこいつは脱いだらすげェなんてこともねェぞ」
「何てこと言うの!!」
「ンなもん見りゃわかんだよ」
「何てこと言うの!!」

二人分のセクハラ発言に芸の無いツッコミを送ってはたと気付く。あれ?何だろうこの沈黙。何でこの二人睨みあってるの?むごんのいかく、というやつか…!私邪魔かな?


「テメェなにさっさと家入ろうとしてやがんだよ」
「え!?わた、わたしいらなくないですか?」
「むしろテメェ抜きでこのカスと話す意味ねェだろカス」

カ、カスカス言ってくる。
その時、珍しく優しい手つきでよー兄が私の肩を抱いた。ケケケと続く笑い声。何か企んでるな…。

「ケケ、じゃあ戻っぞ。俺達の家に」
「強調してんじゃねェよ、潰すぞ」

阿含さんの額に青筋が浮かんでいる。マジでキレる5秒前みたいでものすごく怖かった。(やっぱこの二人て仲悪いんだな)

 

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