薄桜鬼 | ナノ






私はただ土方さんのお傍にいたかったんだ。
何も出来ないことは解っている。
それでも何もせずに指を咥えていることなんて、私には到底無理だった。


「だから北上するっていうの?」


総司は眉を吊り上げた。
昔から総司は弱い私が新選組について回るのを、あまり良い目で見ていない。
君はへたくそだとか、さっさと江戸に帰りなよだとか、そんなことばかり言われてきた。
昔は大分堪えたものだけど、少し大人になった今では解る。
総司は単純に私の身を案じてくれていたんだ。


だからこそ今反対されているのだって、私のことを思って言っているのだとは、解ってる。
近藤さんが亡くなって会津の陥落も間近に迫った今、総司と共に江戸に帰った方が安全だってことくらい。
解っているけど、従いたくなかった。


「ごめんね、総司。役立たずなのは解っているんだけど…」
「つくづく君も馬鹿だよね。呆れて物も言えないって、こういうことを言うのかな」


皮肉っぽく言いながら、総司は溜め息をついた。
夜風が総司の色素の薄い髪を浚って、そっと通り過ぎていく。
木々のざわめきが耳に心地よい。
明日にでも会津は陥落して、私たちは仙台に向かうのだろう。
これが恐らく総司との今生の別れになる。
それは根拠がなくても、確かな未来だった。


「僕はさ、後悔するのが嫌いなんだよね」


不意に総司は呟いた。
驚いて顔を上げると、総司は空を仰いでいる。
翡翠の瞳には寂しげな色が浮かんでいた。


「土方さんに散々言ったけど、結局一番腹が立つのは僕自身に対してなんだよ」
「総司…」
「どうして僕は近藤さんの傍にいなかったんだろう、ってね」


自嘲するように、総司は口元を歪めた。
強がりな彼の瞳に光る物を見つけてしまって、気付かないふりをして視線を逸らす。
総司は試衛館で剣術に明け暮れていた頃から、誰よりも近藤さんを慕っていた。
私も近藤さんのことは大好きだったけど、総司の想いはそれ以上。
近藤さんの為に命を懸けると誓った人だからこそ、自分が傍にいない間に全てが終わった事が悔しかったんだと、今更ながら思った。


「僕がその場にいたとして、近藤さんを引き留めることは出来なかったかもしれない。僕がいたからといって未来が変わったなんてさ、正直思えない。でも居なかったっていう事実が悔しくて仕方ないんだよ」
「…うん」
「皮肉だけど、今は咲の言う意味が解る、かな」


軽く笑って、総司は私を見据えた。
見たこともない程、穏やかで優しい瞳。
胸が締め付けられる。


「君は後悔しないでね」
「うん」


私が頷くと、総司は微笑んで手を伸ばす。
大きな手は頭を撫でた後、ゆっくり離れた。


お互いにまたね、とは言わなかった。
いつものように手を振って、そうして私達は別れた。




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