薄桜鬼 | ナノ



総司の寝顔を見るのは何度目だろう。
新選組の頃は殺気の中にいたから、いつも眠りは浅いのだと言っていた。
事実私が起こしに行くと、既に起きて座っていたっけ。
その総司が私を信用して深く眠るようになったのは、一体いつからだったっけ。
それを思い出せないのは何だか悔しいけれど、嬉しいことでもあった。
なぜなら私が総司の傍に長くいる、何よりの証拠だから。


そんなことを考えながら、総司の寝顔を見つめた。
朝というより深夜といった方が近い時間帯だから、当然彼は寝ている。
かくいう私も厠に行っただけで、二度寝しようと企んでいるんだけど。
それにしても総司は随分穏やかな顔をしている。
小さな寝息、呼吸に合わせて上下する肩。
あ、


「笑った」


総司の口元が緩んだ。
どんな夢を見ているんだろう。幸せな夢かな?
そこに私がいたらいいな、なんて思ってしまう。


好きになったのは、いつからなんだろう。
気がついたら止められないほど想いが溢れて、いっぱいいっぱいになっていた。
いつからだっけ、いつからだろう。
解らないけど、一つだけはっきりしていることがある。
私はきっとこれから先も、総司のことが大好きだ。


その時唐突に腕を取られて体制を崩す。
あっという間に布団の中に引き込まれ、背には筋肉質な腕が回った。
驚いて目を見開いた私の視界の先に、翡翠色の瞳。
総司は目を細めて、喉の奥で押し殺すように笑った。


「すごい顔してるよ、咲」
「…っ、いつから、」
「つい今だよ。穴があくほど見つめられていたから」


そう言った総司の声音は寝起きのためかかすれていたけど、からかうような色を含んでいる。
もう、と膨れた私の頭に手を回し、総司はそのまま私を引き寄せた。
広い胸板に頬がぶつかる。総司の匂いがいっぱいに広がって、何だか安心する。


「まだ起きるには早いよ」
「二度寝しようと思っていたの。でも少し、総司の寝顔見ていたくなって」


私がそう言うと、総司は抱きしめる手を少し緩める。
上から見つめられて、何だか恥ずかしかった。


「なに?」


堪らなくなって尋ねれば、何でもないよと総司は首を振る。
そして今度は優しく笑った。
慈しみが惜しげもなく湛えられた瞳は、真っ直ぐ私だけを映している。
それだけで贅沢な気持ちになってしまう。


「咲」


柔らかく呼ばれて、胸がいっぱいになる。
総司は落とすように笑った後、そっと私の頭に口付けした。


「おやすみ」


再び引き寄せられ、強く、でも優しく抱き締められた。
まるで宝物を抱えるような扱いに、思わず笑みが零れる。
おやすみ、と私も囁いて、彼の胸に頬を寄せた。


こうして毎日過ぎていくといいのに。
それが小さな、だけど大きな幸せ。


fin.

企画
Project*A



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