黒子テツヤは冗談のつもりだった


「赤司君、この試合……ボクが活躍出来たら、ごほうびのチューをくださいね」


黒子と赤司は別に恋仲ではない。友人ともいえるかどうか、微妙な距離の部活仲間。赤司に対してキスをねだる黒子はいたってノーマルな人間なのだが、複数の男性から愛される不思議な魅力があった。それを本人が自覚し、正直煩わしいとさえ思っている。自分に好意を寄せてくる黄色緑色青色紫色灰色虹色……様々な人々。しかしその色めき立った群れの中でただひとり、そういった類の感情を向けてこない人、それが赤司征十郎だった。彼はいつも冷静沈着・温厚篤実、文武両道・容姿端麗、もはや非の打ち所がない。欠点を粗探ししても、バスケをする人間にしては少し背が低い位か。しかし彼はそんなハンデを物ともせず、自分の役目を完璧に全うし、名門バスケ部のレギュラーに定着している。黒子はいつも思っていた、正直つまらない人間だと。自分に靡かないのは助かるけれど、それが少しだけ面白くない。自分に興味があると手を差し伸べてくれたあの人の、自分に興味がないというポーカーフェイスが妙にイラつく。だからいつかそんな彼の表情を崩したいと考え、今日は試しにからかってみたのだ。結果、黒子のイタズラな誘惑を聞いてしまったカラフルな人々は口々にズルいズルいと喚いていたが、当の本人はいつもと変わらずいやみたらしい綺麗な顔のまま。眉をピクリとも動かさず、こちらを真っ直ぐ見つめている。つまらないな。やっぱりこの人はただの完璧過ぎる人形なのかもしれない。心ない美しい人形なんて、一目で飽きる。ある意味予想通りの反応に、一切の興味をなくした黒子は深いため息をついた。もういいや、無駄なお遊びだった、大事な試合に集中しよう。未だギャーギャー騒ぎの熱がおさまらない状況の中、バスケをこよなく愛する黒子はいつも通り気配を消し、試合へ集中する。自分がどんな言葉を誰に言っていたか、キレイサッパリ忘れる程、ただただ仲間とのバスケを楽しんでいる。見事に決まっていく、素晴らしい絶妙なパス。今日の黒子は絶好調、これまでで一番の活躍をし、帝光中学バスケ部は歴史的大勝利をおさめた。仲間達と喜びを分かち合っていた黒子。労いの言葉を交わし、ハイタッチをするメンバー、その中にあの色がいないことを彼は知らない。ひっそりと背後に忍び寄る赤色に気付いていない。目の前の勝利に気を取られ、油断していた時、突然。

「くろこくん、」「は、」

ちゅ、思考停止、赤の王様からのぎこちない口づけ。振り向いた顎を手で掴まれて、勇気を振り絞ったいっぱいいっぱいの表情で、唇に触れる。黒子のイタズラな言葉を真に受けた赤司。そして、赤司を見くびっていた黒子。あの一方的にふっかけた勝負は、放棄されたと思っていたのに。まさかのまさかで、最後にどんでん返しだ。女の子のファンから赤司様と持て囃され大層おモテになるにも関わらず、意外と恋愛に疎くウブで奥手。誰にも悟られないよう密かに透明な影の子への恋心を募らせていた赤司。黒子を好きで好きで、でもこの初めての恋をどうしていいかわからなくて。結果、あらゆる感情を心の奥に無理矢理押し込め、鉄仮面のつまらない人間になっていた。だが、黒子のちょっかいに触発されて、今回は一念発起、頑張っちゃったのだ。赤司征十郎は黒子テツヤへ精一杯のごほうびを与え、

「……黒子君、キミなしでは勝っていけない、俺は生きていけないよ……ずっと、俺のそばにいてくれないか……?」
「……は、い……ぼくで、よければ……キミのそばに、います……ずっと、ずっと……」

沢山の悲鳴が飛び交う中、公開プロポーズ。硬直した黒子の真っ赤な顔を愛おしげに見つめる赤司。遂に剥がした臆病な仮面、もうこんなモノは必要ない。さあ、心を開放して、素直になれ。

「あの日からずっと、キミにしか興味がない……俺は黒子テツヤが好きなんだ」

一瞬にして心臓を貫く、真っ直ぐな告白とたおやかな微笑み



この恋、冗談じゃない/真実の愛こそ、最強



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