人をひとり、簡単に殺したのに、どうして殺人犯は、簡単に死刑にならないのか?
   殺せばいいってもんじゃない。生きて償うことが大事だ。死刑なんて、生命倫理に反している。それは犯人こそが踏みにじっているだろう。憎しみは憎しみしか生まない。目に目を歯には歯を、殺人には殺人を。時代錯誤はやめろ。無期懲役なんて、馬鹿げてる。無関係な人間が客観視して、当たり障りない判定を下してるだけか。じゃあいったい、どうしろっていうんだ。
「出来る限り、本人の意向を、尊重しよう」
   ひっきりなしに、様々な意見が飛び交う中、誰かが名案を出した。いくらか反対の声はあったが、最終的に可決され、その新しい法律は現在施行されている。この時代、あるモノを用意しておけば、理不尽に対して正当に裁きを与えることが可能になった。それが、無残に散った尊い命への、せめてもの餞となると信じて。
「よくも……僕のテツヤを殺してくれたな」
「お前は絶対に許さない」
「殺してやる殺してやる殺してやる」
「何故死なない!?お前は一体何者なんだ……いい加減に死ねっ!!」
   とある薄幸の少年は、愛憎に満ちた歪んだ想いを抱かれ、その類稀な観察眼から潔く死を予期していた。ひどい執着に塗れた一世一代の告白を、意を決して素直に突っぱねてしまい、ショックで逆上した思い込みの激しい人間にその場で惨殺された、黒子テツヤの遺言状。
   それは、部屋一面に鏡が張り巡らされた薄暗い牢獄へ、殺人犯を永久に閉じ込めることだった。
   犯人は、“赤司征十郎”
   心の狂ったお前だと、分身たちが、延々と教え込ませるように。
鏡刑 / 心が死ぬまで、己を惨殺