なぁ神様、マジで俺が死ぬ前に、アイツらさっさとくっついてくんねーかな

「ったく、まーたアイツらふたりっきりのくせにモジモジしやがって……じれってぇ……どうにかしてヘタレの赤司にけしかけなきゃな……オイッ!灰崎!赤司の前で思いっ切り黒子に抱きついて来い!!」
「ハ、ハァッ?!ア、アンタ俺を殺す気か?!ただでさえ俺はアンタのせいで赤司のフルボッコを毎日受けてんだぞ?!」

   まただ。子煩悩ならぬ赤黒煩悩。これで何度目の死刑宣告だよ。ふざけんな。うちのバスケ部のキャプテンである虹村サンは、どうもあのふたりに甘い気がする。あのふたりとは、どう見ても両想いのくせに、どうにもこうにもくっつかない赤司征十郎と黒子テツヤだ。うちのバスケ部内ではもはや公認カップルで、誰もふたりの関係を咎める命知らずな馬鹿はいねぇ。ふたりの仲を誰よりも応援しているのが、口よりも手が早い最恐キャプテンだからだ。俺は身を持って知っている……この人の腕っ節の強さを。昔は色々ヤンチャしてたみてぇで、警察にもお世話になったことがある程、有名な悪ガキだったらしい。喧嘩で一度も負けたことがない、そんなヤバい噂も耳にしていた。だからこそ、俺はこの人には逆らえねぇ。部活をサボったりなんだりして、この人の鉄拳制裁を喰らい、何度も三途の川を見た。だから、絶対に逆らえねぇんだ、逆らえねぇけど、赤司だって超ヤベェ。アイツはテツヤに関することには非常に敏感だ。黒子テツヤに対してのみ優しく控えめで奥手のウブ野郎のくせに、敵とみなした奴には鬼神と化す。虹村サンの苦し紛れのアドバイスのせいで赤司のサンドバッグとなってしまった俺は、奴の秘めた凶暴性を十二分に知っていた。もし、赤司が世界でたった一つの宝物のように大切にしているテツヤへ、俺の手が少しでも触れてしまったら……どんな目に遭うか、血生臭い凄まじい光景が脳裏を過った。

「うるせぇっ!これも可愛いふたりの幸せの為だ。喜んで犠牲になれ、名誉サンドバッグ・ボコられ崎」
「ふ、ふざけんなっ!いくら俺が可愛くねー後輩だからって理不尽にも程があんぞ!!そんなにアイツらをくっつけたいなら、アンタがやればいいだろ!!」
「俺はこう見えても打たれ弱いからダメだ。お前は日々俺にも赤司にも鍛えられているから丈夫だろうが。さっさと行けっ!灰崎!!いい加減にしねぇと……」

   バキッ、ボキッ、拳を鳴らして目の据わった赤黒煩悩野郎が近づいて来る。

「……くっ、クッソォオオオッ!こうなったら死んでやるっ!!」
「骨は拾ってやるぞっ!!頑張れ灰崎ィィイッ!!!」

   逃げ場はどこにもない。デッドorデッドに追い込まれた俺はとにかく目の前の暴君レインボーから逃げ出すことを選んでしまったのだった……。

「……ゲホッ、ハァハァ……ま、じ、で、し、ぬ……!」
「ナイスファイトだったぞ、灰崎!!赤司の奴、嫉妬丸出しで灰崎をフルボッコにした後……黒子のことをギュッって優しく包み込むように抱きしめて“お前を誰にも汚されたくない”とかやるじゃねぇか!黒子も顔真っ赤になって超可愛いしよ!この調子でふたりがくっつくまで頼むぞ灰崎!!」
「え」

   こうして、俺は赤と黒のふたりをくっつけようとする虹村サンの画策に度々巻き込まれた。鬼神と暴君に命をすり減らされる地獄の日々。さっさとくっつけと願う俺の望みは神様へ中々届かず……しかも状況は悪化の一途を辿り始めていた。

「なぁ灰崎……最近赤司が俺に冷てぇんだけど……何でか分かるか?」
「あぁ?そんなのアンタが俺を生贄にしている間、テツヤに構い倒しているからだろうが!」
「だってよぉ、黒子の奴めちゃくちゃかわいいんだもん」
「だもん、じゃ、ねぇえぇえっ!!俺が生傷が絶えない生活になってるのは全部アンタのせいだぞ!!」
「傷は男の勲章だ。誇れ、灰崎!!」
「こんな勲章要らねぇよ!!つーか、傷だらけの俺に絆創膏のひとつでもくれよ!!」

   テツヤと兄弟のように仲が良い虹村サンは、事あるごとにテツヤのそばにいた。あのふたりの間には恋愛感情なんて微塵もなく、冷静に見ればただただ仲が良かっただけだと分かるもんだが……そんな姿を見せ付けられた赤司の気分が、良い訳など決してなかった。和気あいあいのふたりを遠くから苦々しく睨みつけ歯を食い縛りながら、サンドバッグの俺をボコボコに殴り倒す。そんな赤司の拳から俺の身体へ伝わってくるのは、テツヤへの切ない恋心と虹村さんへの深い嫉妬心だった。日に日に威力を増していく殴打と共に募る憤り。このままだと、危ねぇ。きっと、これから、何かが起こる。その不安は見事に的中して……今に、至るのだが。


「虹村先輩は、黒子のことを好きなんですか?」

   遂に、赤司が虹村サンへ突っかかってきた。ほぼ敵と見なしたらしい。禍々しい殺気を隠すことなく、年上の先輩しかもバスケ部が誇る最恐キャプテンへ疑いの目を向けている。自分のライバルか否か。赤司はここで白黒をつけようとしていた。ピリピリ緊迫した空気、そんなのお構いなしにマジギレ寸前の後輩を悠然と見つめる虹村サンは、ゆっくりと口を開く。

「へぇ……赤司……意外にハッキリ訊いてくるな」
「は?どういう意味ですか」
「いや、普段からそんな風に黒子へハッキリと言葉で気持ちを示せばいいのにと思ってよ」
「……まず、俺の質問に答えて下さい」
「好きって言ったら?」
「……先輩だろうと、容赦はしません」
「……ふぅん」

   マズイ。このままでは流血沙汰だ。赤司の目は既に血走っている。これは俺も巻き添えを喰うに違いない。何にもせず大事故に巻き込まれて大怪我をしてしまう位なら、未然に防ぐ為にここは尽力するのみだ。

「虹村サン、赤司の目マジだぜ……からかうのも大概に、」
「赤司、黒子を奪われたくなかったら……ちゃんと黒子に自分の気持ちを伝えろよ」
「……それは、……いつか、ちゃんと、伝えるつもりで……」

   虹村サンが俺の言葉を遮って赤司へ忠告したこと。それは、当たり前のことだった。好きならば相手にその気持ちを、“好き”を伝える。その当たり前のことが出来ない赤司の胸に真っ直ぐ突き刺さったのか、アイツからはハッキリと動揺が見て取れた。不覚にも、俺は的確な指摘をした虹村サンへ、心の中で拍手をしてしまう。結局の所、赤司の野郎が無駄にウジウジしているせいで、こうなってしまったんだ。さっさとテツヤヘ告白していれば、こんな面倒なことにはならなかったのに。こうして、問い詰めるつもりが、次第に追い詰められていく赤司へ、

「ノロノロしてっと、横からかっ攫うぞ?俺、」
「!!やっぱり、虹村先輩は……、」

最後の爆弾が投下された。

「じゃなくて、この灰崎が」

赤司にも、俺にも、爆弾が。

「はっ…?!あんたっ、なにいって、」
「灰崎、だと?……そういえば、貴様、あの時も抱きついていたな……やっぱり黒子のことを……!」
「いやちがう待っ、」
「……黒子を好きな奴は俺が全力で潰す。よって、灰崎……お前をミンチにしてやる」
「お、落ち着け赤司っ!俺は濡れ衣を着せられて……ちょっ、や、やめ……!」
「誰にも、渡さない……渡してたまるか……黒子を一番好きなのは……この俺なんだからなっ!!」

やっと、大爆発した、初めての恋心。

「……そう、なんですか?あかしくん……?ほんとう、に……?」

   それを目撃したのは、まるで神様に導かれたようにそこへやって来た、目をまん丸にして驚く黒子テツヤ。

「……え?……あっ……く、くろこ……いまの、まさか、きいて……」
「……ました。しっかりと、この耳で……キミのことばを」

   顔も耳も首も真っ赤っか。まさかこんなことになろうとは。赤司は恥じらいの色を片手で覆い隠そうしても、時すでに遅し、その行為は無意味に等しくて。

「う、……わ、わすれて、くれ……いきおいまかせの、あんな、ことば……、」
「……いや、です。わすれたくなんか、ありません。ずっと、きいていたい、大切なことばです……」

   時間を巻き戻してしまいたい。そうすれば、ついつい吐き出してしまった告白の言葉を飲み込んでかき消してしまうのに。羞恥心にまみれた赤司が望む忘却。それを却下したのは、アイツが必死に想いを馳せるテツヤ自身。忘れたくない、その気持ちを伝えようと、テツヤは力なく垂れ下がったもう片方の赤司の手を力強く握った。ジワジワとその本気さが伝わって、目を伏せていた赤司はやっとテツヤの目を真っ直ぐ見つめる。

「……いいのか?ずっと、おれが、おまえを……好きって……いっても、……ほんとうに、いいのか?」
「……はい、もちろんです」
「くろこ、……あ、ぁ……しんじられない……ユメみたいだ……うれしくて、あたまが、おかしくなる……」
「……ボクだって……あたま、クラクラしてます……あかしくんの、せいで」

   夢心地、熱に浮かされたふたり。お互いのあたたかい気持ちが、お互いを発熱させて、柔らかな頬に赤を帯びる。

「黒子、すきだ」
「はい」
「好きなんだ、大好きだ」
「ボクも、です。好きです、大好きです」
「くろこ……その、よかったら、……おれと、」


   やっと、届いた。神様へ願った他人の初恋が成就し、俺は九死に一生を得たのだった。


「よし、灰崎、退散するぞ」
「……い、いのちびろいした……」
「あとは若いふたりに任せてだな……」
「どこの仲人ババアだよ!!」


   モジモジ、ウジウジ、あの頃のふたりには、もうもどれない



じれったい子どもたち / 一度くっつきゃ、離れません




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