俺は虹村修造、一応バスケの名門校・帝光中学バスケ部の主将を務めている。沢山の部員をまとめ上げるのも大変だが、慣れてくれば要領を掴んで的確な指示を飛ばせるようになった。サボり癖のある奴には鉄拳制裁をお見舞いするせいか、後輩には恐れられてるみてーだけど……なにも暴力が好きって訳じゃねぇし、喧嘩なんざとっくの昔に飽きたもんだ。それに同級生からは恐怖の対象として見られることはなく、世話焼きやらお節介やらと、むしろ馬鹿にされ、からかわれている……しょうがねぇだろ!人が困ってたら助けねぇ訳にはいかねーだろうがぁ!!そう、助けない訳にはいかなかった……特に、初恋を拗らせたじれったいあのふたりを。

   一年生にして一軍入りし副キャプテンに任命された天才PG・赤司が三軍で埋れてバスケ部を辞めようとしていた黒子へ手を差し伸べたことから始まったこの受難。人当たりは良いが他者に無関心、そんな赤司が誰かに興味を抱くことすら驚きで。助言を与えてからは黒子が現れるのを今か今かと待っている姿が健気に見えて、何気にコッチもそわそわしたもんだ。やっと黒子が新しい自分の役割を見つけ、赤司の元へやって来た時、アイツの全身から喜びのオーラみてぇなもんが出ていた気がして、良かったなと一安心した。

   百戦百勝を掲げたこのバスケ部にとって黒子テツヤは重要な切り札になると、赤司は確信を持っていた。黒子の力を試す機会を設けるよう赤司に頼まれ、コーチに進言したのは俺。用心深い赤司がそんな風に期待を寄せる黒子へ、俺も自ずと期待してしまったのかもしれない。結果は、期待以上、赤司は口角を上げて嬉しそうに言った。あれっ?消えた?!と思ったら、魔法のようなミラクルパスが通っている。確かに黒子は俺等とは違うスゲぇ力を持った奴だった。

   よく黒子を見出したな、感心しながら赤司を横目で見ていると……アイツの瞳には、もはや黒子しか映っていないように思えた。魅せられているのだろう、赤い瞳は黒子の動きひとつひとつをひたすら追い続け、熱っぽい視線を投げかけていた。これは、まるで……ま、まさかな……俺は、とある予測が働いたが、なんだか恐ろしくなって見て見ぬ振りをする。まさか、赤司が黒子のこと、す……いやいやそんなはずあるわけねぇ。赤司の気持ちが白か黒かと訊かれたら……とりあえず、白に近いグレーだろ。そうそう、大丈夫、大丈夫……、

「あの、虹村先輩……」「あ?……うわっ、なんだよ赤司そのカオ……真っ赤じゃねぇか」「どうしよう……俺は、一体、どうすれば、」「は?何かあったのか?」「実は……黒子が、」「黒子が……?」「……黒子が可愛過ぎて、このままだと、思い切り抱きしめちゃいそうなんです……!どうしよう……そんなことしたら、絶対嫌われるっ!」「お、おぅ……そうか、それは、深刻だな……まぁとりあえず、ヤバそうになったらその欲をサンドバッグ(灰崎)にでもぶつけてろ」

   もう、これは黒だ。一目瞭然、赤司は黒子に恋をしていた。いつも黒子を見つめて気にかけてときめいて、それを繰り返してとうとう手を出しそうになる、危うい所まで来てしまっていた。

   男だけど確かに黒子は可愛い。容姿はもちろんだが、後輩の中でも他の奴らと違って可愛げがある。何かと世話を焼いてしまう俺を兄のように慕ってくれるので、勝手に弟みたいな存在だと思っていた。ただ、赤司の場合は単にひとり人間として黒子に並々ならぬ好意を抱いている。本気の本気で。

   最初は面食らったが、何考えてんのかよくわかんねぇエリートの赤司にもこんな可愛いらしい一面があったんだな。意外にも恋愛には不器用で奥手。まぁ初恋らしいから、戸惑いながらアイツなりに頑張るだろう。俺のアドバイス通り、事あるごとに灰崎をフルボッコにしてズタボロにしている所を傍観しながら赤司の初恋を温かく見守っていた……が、

   アイツ、この頃俺に対する当たりもキツくなってやがる。黒子と仲良くなり始めたメンバーにもよく睨みを効かせたり、実力行使でボロ雑巾にしたりすることもあるが、兄弟のように仲が良いと言われている俺にも無駄に牽制し始めた。

   よっぽど余裕がないらしい。俺が黒子のことを呼ぶと犬っころみてぇに目ぇキラキラさせてパタパタと尻尾振って寄ってくるからめちゃくちゃ可愛いーんだけどよ……その後ろを殺意剥き出しの赤い凶暴犬が追ってくるから嬉しさ半減なんだよな……どんだけ嫉妬深いんだよ。黒子に誘われてストレッチのペアを組んだ時も、それを羨んだ赤司が次の日にストレッチのペアを俺と強制的に組んできて、筋肉をめちゃくちゃ引き伸ばしてきたからムカついて伸ばし返してやったら喧嘩ふっかけてくるし……妙にガキっぽいとこあるよな。それに、冗談で黒子へ「テツヤ、俺の弟にならないか?」って訊いたら「はい、修造お兄ちゃん」って返されて物凄く可愛い弟の頭を撫でれば……赤司の野郎、背中にドロップキックをかましてきて……後でキッチリしめたけどな。

   それにしても、なんつー迷惑な話だよ。俺は黒子を恋愛対象として見ている訳でもねぇのに、兄として慕われる俺を赤司のバカが一方的に敵視して……スゲぇめんどくせぇ。赤司は盲目バカだからわかんねぇかもしれねぇけど……黒子だって、お前しか眼中にねぇのに。ホント、バカな奴。

   どん底にいた黒子を救ったのは紛れもなく赤司だ。まるで神様のように畏れを抱いて、まるで王子様のように憧れを抱いて。黒子テツヤにとって、誰よりも特別なのは赤司征十郎。それは赤司だけが知らない、周知の事実だ。だからお前は堂々と黒子へ告白でもなんでもしてくれよ。きっと必ず両想いになるから……って、

   赤司ィ、黒子と目ぇくらい合わせろ!このヘタレ野郎がぁあああ!!!クソッ、黒子の前ではしおらしくしやがって……せっかく、みんなに協力してもらってふたりきりにしてやったのに!!まぁ、黒子も恥ずかしがって赤司の方をちゃんと見ようとしねぇもんな……いつもお互い相手の様子が気になってチラチラ盗み見てるくせに。目の前にすると全く目を合わせらんねーから……めんどくせー奴らだな。ハァ……仕方ねぇーなー。修造お兄ちゃんが一肌脱いでやるか!

俺はふたりの小さな頭掴んで、無理矢理顔を突き合わせてやった。ピッタリかち合う、瞳と瞳。いつもといっしょで、赤は黒、黒は赤、お互いしかそこに映っていない。あらら、ふたりで、同じくらい、真っ赤っかになってやんの。これじゃあ、好きって言ってるのも同然じゃねぇか。全く、手のかかる、可愛い後輩だよ。



じれったい子どもたち / はよ、くっつけ!





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