▽ 産屋敷邸にて

「――そうか、鬼一族・風間家と無事に接触できたんだね」

 私と煉獄さんの報告を聞き、静かにそう発するお館様は笑みを浮かべていた。
 ここは産屋敷邸。柱合会議でも使用されるこの居間に通された私たちは、出迎えてくださったお館様と簡単な挨拶を交わしてから本題に入る。出会えた鬼の一族は私たちの存在を全く知らない様子だったこと、警戒心を露わにされた際に感じた背筋の凍るような威圧。今まで出会ってきた鬼の中でも特異な存在であるのは言うまでもないことを、包み隠さず報告した。

「しのぶ、君の目から見て彼らはどういう者たちだったかな?」
「そうですねー、古き良き武人……という言葉が当てはまりそうでした」

 統領だと話してくれた風間千景という人物からは、言葉に言い表せないほどの強い鬼の気配を感じた。闘争心が強く、敵に回すと厄介な存在であると理解できてしまうくらいのもの。それと同時に、仁義が強いであろうことも。
 そして大切なものを護ろうとする意志と姿勢は、鬼であろうと人間であろうと大差ないのかもしれませんね。奥さんである風間千華さんとの仲睦まじいお姿を見て、そう思った。

「だがお館様、彼らの見た目は俺たちと全く変わらず一般人として過ごしているようだった! 気配に敏感な俺たちだからこそ分かったが、何故今まで教えてくれなかったのですか!」
「気配に敏感だから分かった……果たして、それはどうだろう」
「?」

 静かに語るお館様に、煉獄さんは不思議そうに首を傾げた。

「確かに私は、彼らの存在は認知していた。知り合い伝手で耳にしていたけれど、何処に住んでいるかまでは分からなかったんだ。長い歴史の中に彼らの存在が記されてる書物や記録は存在していない、なのに何故……今このタイミングで接触できたと思う?」
「む、それは……」
「知り合いの話によれば、風間の里とその配下に身を寄せる一族の住んでいる土地には強大な結界が施されているそうだ。人間を始めとした害ある存在を寄せ付けず、誰からの邪魔も入らないようにという願いが込められている特別な結界がね。その結界から、鬼の気配を漏らすなんていう初歩的な過ちを犯すとは到底思えない。つまり、そう遠くならない未来に君たちがあの場所へやってくると分かっていた者が招いてくれたということだ」

 結界を生み出し、人間の手から護っている存在。そんな能力を持っている者が、私や煉獄さんを招いた? いったい誰がそんなことを……

「今この場で考えを巡らせたところで答えは出てこないよ、しのぶ」
「!」
「経緯はどうであれ、私たちは無惨むざんとは全く違う存在の鬼と接触することに成功した。そして彼らを私たちの仲間として迎える準備をしないといけない」
「仲間? お館様、まさか竈門禰豆子と同様に組織公認にするつもりでは!?」

 煉獄さんが驚くのも無理ない、鬼殺隊に入隊した竈門炭治郎が妹であり鬼化した妹をこの場に連行したのは記憶に新しい。鬼と敵対している身だというのに、何故敵を仲間にしようとしているのだろうか。疑問は、泉の如く出てくるばかり。

「よく考えてみてくれ、二人とも。あの鬼一族は、無惨むざんとは全く違う存在にして奴が一番の目的としている物に一番近い存在だ。理由は、言わなくても分かるね」
「「!!」」

 鬼舞辻きぶつじ無惨むざんを始めとした鬼たちは、日光が弱点。それをもし、克服できる手段があるとしたら……どういう行動を取るか容易に想像できてしまう。

「風間一族が、鬼の身でありながら日中でも行動できるのは知り合いからの情報で知識として知っている。それに君たちは、実際に目の当たりにしてきたはずだ。普通の一般市民のように、日中でも行動している彼らをね」
「…………」

 情報というものは、秘匿として扱っていても何時どんな時に漏れるか分からない。無惨むざんが、風間一族の存在を知ってしまったら十二鬼月の上位に当たる部下――上弦の鬼を使ってでも襲撃して手中に収めるに違いないだろう。あの者たちの血を利用し、日中でも活動できる能力を持ってしまったら……私たちに勝ち目は、ほとんどないのかもしれない。

「だからこそだよ、しのぶ。一時的に共闘という形で同盟を組めればと思っているんだ、なんせ彼らは私たち人間との関りを持ちたくないと思っているのだから。そんな者たちを傘下として迎えることは不可能。だが互いに利害が一致していれば、協力関係に成りえる。特に奥方は、その辺りの話は十分に理解されているはずだ。とても聡明な方だからね」
「お館様は、その者と会ったことはないはずですよね。なのに……」

 どうして、昔から知っているかのように私たちに話してくださるのだろう……?
 私の疑問は口に出ることなく、心の奥底に留められる。聞いても良いものか、なぜか躊躇してしまったのだ。

「会ったことはないが、その者の良き理解者と知り合いだからね。だから、分かるのかもしれない」

 どこかで面と向かって出会ってみたい。そう静かにお館様は言葉を漏らすのを最後に、私たちの面会は終わりを迎えた。
 風間一族への同盟提案は、私と煉獄さんに一任されることとなり互いに顔を見合わせてしまう。私たちは柱だ、多忙であるのは言うまでもなく今もなお跋扈している鬼を倒しに向かわないといけない。

「俺たちが時間を合わせて向かうというのも、少しばかり無理な気がするな!」
「確かにそうですね。では、今回は私に任せてもらえませんか? 丁度、連れて行きたい人たちもいますから」
「む、それは構わんが……一体誰を連れて行くつもりだ?」
「ふふ、ナイショですよ」

 人差し指を唇に当て、私は笑みを浮かべて話した。煉獄さんは不思議そうに首をかしげているけれど、「それでは任せる!」と言い残してこの場から去っていった。
 私が連れて行きたい者たち……蝶屋敷で療養しながら鍛錬に身を徹している彼らの姿を思い浮かべながら、逸る気持ちを抑えることなく帰路へと着いていく。なるべく早く準備をしてから、風間の里へ向かわないといけませんからね!


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