▽ 緊急家族会議と召集

 これは、私たちが蝶屋敷へ向かう数時間前のこと。
 両親と千将と私の四人しかいない部屋で、静かに口を開いたのは父上だった。

「鬼殺隊の柱と名乗る胡蝶しのぶとやらと共に、人間共の世へ一時的に身を寄せる形となった。まがいもの相当の鬼が跋扈ばっこしているらしく、二人には里の外へ出てもらう」
「父上たちが里を護ることを考えたら、まあ妥当だよな」
「敵がどんな能力を持っているのかも把握できていない状況だから、下手に動けないのよね。情報共有もしたいから、千怜たちと連絡を取り合うことは許可を貰っているわ」
「貰ってくれなくちゃ困るんだけど……」

 緊急家族会議とも言えるこの場で、私たちは最終確認も兼ねた目の前に提示されている情報を確認していた。突然ではあるけれど、私や千将にとって里の外に広がる世界は未知の領域だ。両親が足を踏み入れていた時期だって随分と昔になるわけだし、知り得ている情報が古すぎる可能性だって捨てきれない。

「それに、折角の機会だ。お前たちが人間の世を見てくるまたとない好機、歴史に名を残すようなヘマをしないでさえすれば抜刀や能力開放は許可しよう」
「へ? マジで言ってるの?」
「敵が敵だもの、それくらい許容しないとね。あと、二人にはこれを渡しておくわ」

 そう話す母上は、膝元に置いてある二本の刀を私たちの前に置いた。
 長さからして太刀の部類に入るだろう、父上が時々腰に下げてる刀と同等の形状だから。

「日ノ本にある国宝であり我が家宝・髭切と膝丸よ。鬼殺しの太刀と言われている刀の一つで、千景さんが持っている童子切安綱と同じくらい貴重な代物なの。これを持っていきなさい、二人の力になってくれるから」
「そんな大事なモンを渡す理由って……相手が鬼だから、か?」
「それもある。対抗できる武器は一本でも多いほうが良いからな」

 普段は打刀のような刃渡りが標準と言われている刀を使うことが多いけれど、それよりも長い刀……しかも国宝級の物を渡されるときた。それだけ気を抜いてはいけない敵だということを、母上は私たちに教えてくれているのかもしれない。

「二人の処遇は、鬼殺隊をまとめている頭・産屋敷耀哉に一任させるとしよう。指示があるまで待機し、胡蝶しのぶの指揮の下で動いておけ」
「分かった」
「了解!」

 そんな会話を交わしてから、私たちは受け取った刀と簡単な貴重品を手にして里の外へと出た。両親の話でしか聞いたことのない外の世界だ、一族を外部から護る為に一時的に外へ出るとは言え胸が躍らないわけがない。
 今回の騒動が終われば、外界との連絡手段は完全に断ち切られるだろう。それが分かっているからこそ、今のうちに他者から得られる知識や技術を吸収しないといけない。

「胡蝶さん、今から何処へ向かおうとしてるか聞いても良い?」
「構いませんよ。蝶屋敷と言って、私の私邸になります。とは言っても、負傷した隊士たちの診療所として開放していたり身寄りのない子供たちを引き取ったりしているので、ちょっと賑やかかもしれません」
「診療所かぁ、胡蝶さんは薬学に精通しているのか?」
「はい! 敵の鬼は血鬼術と呼ばれる異能力を使う者たちが多いので、それで負傷した隊士たちを治している専門医でもありますから。医療に関しては任せてくださいね」

 それ以外にも、療養した隊士たちの体力回復を目的とした訓練も行っているのだそうだ。アフターケアというやつだ。マッサージ、反復訓練、全身訓練などがあるそうで、私たちも蝶屋敷に着いたら参加したらどうかと誘われた。

「鬼殺隊の訓練、ちょっと楽しみかも!」
「だな、俺たちの訓練とはまた違っているみたいだから新鮮だ!」
「訓練って、一体どんなことをしてるんですか?」

 少し離れた場所を歩いていた少年・竈門炭治郎君が、好奇な眼差しを向けながら私たちに話しかけてきた。彼の顔色は、里に立ち寄った当初と比べてとても良い色になっている。里を覆っている結界の効果が効いたのだろう。

「これと言って特別なことはしていねぇけどな……」
「周辺の山を往復してみたり、大物動物を狩ったり、師匠と手合わせしたり、父上との刀稽古も欠かせていないよね」
「この前なんか目隠ししての狩りや稽古が連続してたから、あれは死ぬかと思ったな……」
「へ、へぇ……」

 風間の里周辺にある山は、高低差が激しいところばかりだ。そこを一日かけて沢山往復するというだけでも体力の付き方が全然違うし、季節によって山の生態系もガラリと変わる。それに柔軟な対応をしていかないと、身体が持たない。

「里を出る前なんだけどさ、母上が不知火師匠に俺が新しい武器が欲しいってこと伝えてくれたら、近いうちに届けてくれるって話してくれたんだ! 師匠から貰った拳銃は、軽量で装填弾数も多いから愛用してんだけど、手入れが悪かったからか使いづらくなっててさ」
「改めて手入れの方法を教授してもらいなよ、不知火さんのことだから笑いながら教えてくれるでしょ」
「おう、そうするつもりー。そのお礼は何にすればいいと思う?」
「また母上にお願いしたらどう? この前、自家製のお酒作ったって話していたし」
「でもさー、もういい加減に母上を頼るのも卒業したいぜ」

 両親の紹介という形で出会えた師匠だから、つい対応も両親に頼ってしまう傾向がある。自分のことだから、自分で対処したいと思うのは言うまでもないことだろう。それは私も同様で、定期的に稽古をつけてくれる天霧師匠へのお礼をどうしようかと考えているところになる。
 その後も、炭治郎君以外にも善逸君や伊之助君からも質問を受けて対応していくと目の前に大きな建物が見えてきた。塀の中から蝶が数匹飛んでいるのが見えるから、あそこが蝶屋敷なのかも。

「カア! カア! 緊急招集、緊急招集!」
「!?」

 胡蝶さんに部屋の中を案内してもらおうとした時だ、突然頭上から烏が鳴きながら飛んできたのだ。言葉を喋る動物は、私たちにとって身近な存在だから特に大きく驚くことはない。

「風間千将、風間千怜、両名ヲ鬼殺隊本部ヘ連レテクルヨウニ! オ館様ノ命ニヨリ、他ノ柱モ集合セヨ!」
「あらあら、顔合わせは明日のはずでしたけど……誰かが我儘を言ったのかもしれませんね」
「我儘って……」
「着いたばかりで申し訳ないんですが、荷物を置いたら一緒に来てくれませんか?」

 眉を下げて話す胡蝶さんに、私たちは顔を合わせてからコクリと頷いた。柱の役職に就いている人たちは多忙のはずだ、用件だけを早く済ませてあげたほうが良いのかもしれないと判断したからである。


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