主命とおまじない(1/2)

 辺境地までの道のりは、とても険しかった。だが、それでも彼らは走る足を止めることはしない。自身の領域(テリトリー)である土地へ、あの城へ辿りつくまで……
 どれだけ走っただろうか……もう足が笑ってしまうくらいに長く速度を上げながら走っていると、見慣れた城が見えてきた。

「あ、アポロ殿下!! 皆さんも、一体何が……!?」
「説明は後だ! 医療班を呼べ!! 今すぐだ!!」

 城で待機していた従者やメイドにそう叫びながら、長谷部は皆と共にアポロの寝室へと向かう。バタン、と勢いよく扉を開くと……既に先客がいた。

「遅かったな、長谷部。主が心配していたぞ?」
「み、三日月……な、ぜ」
「我らの主は直感が酷く鋭い、嫌な予感があったようでな……我らをこの地に飛ばしたのだ」
「我ら……?」

 ハッと我に返った長谷部は、三日月の隣にも複数の人影があることに今更ながら気づいた。

「アポロの旦那をベッドに寝かせな! 治療すっから」
「皆もお疲れ、隣の部屋で休むといい。ここは、我々に任せてくれ。三日月……」
「あい分かった」

 三日月の隣に立っていたのは、薬研藤四郎と石切丸だ。特に薬研は、普段着ている服とは打って変わった白衣を身にまとっている。医療器具を持って部屋に入ってくる従者とすれ違うように、長谷部たちは三日月と共に部屋を後にした。

「薬研は医療知識もあるし、薬学にも特化している。従者たちの良き味方になるだろう」
「石切丸は……」
「清めの儀式をさせた方が良いという、主たっての案だ。どうやら、相当厄介なモノをつけられているようだからな」

 隣の部屋へと移動した一行は、月明かりが降り注ぐ窓際へと移動した。

「さて、何故アポロがああも重症なのかを聞かねばならん。ついでに、門限に五月蠅い長谷部がここに残った理由もな」
「あ、ああ……」

 顔色を悪くさせながら、長谷部たちはこれまでの経緯を説明した。帰り間際に王都の使者がアポロを呼びに来た事、半ば強引に行動を共にさせてほしいと青江が進言したこと。嫌な予感は的中し、小夜が物陰に隠れながら行動を見守っていたら……このようなことが起きてしまったこと……
 包み隠さず、皆がこの目で見てきた光景をそのまま伝えると……三日月は瞳を開く。話を聞くことに集中するべく閉ざしていた瞳は、開かれると同時に強い怒りの炎を宿していた。

「血が繋がっているというに、何故こうもヒトは愚かなことをするのであろうな。しかも、身内に」
「恐れたからだろう、アポロの持つ炎をな。他の家族は持ち得ない、恐怖の象徴のようだったからなぁ」
「アポロ……死んじゃう?」

 瞳に涙を浮かべる小夜に、三日月はニコリと笑みを浮かべる。

「お小夜の話していることが正しければ、死にはしないであろうな。ただ、アポロが炎を使う度に呪いが彼を蝕む。心臓に打ち込んだという事は、魔力の発動を引き金に傷みを与えてると思って間違いない。遠征先や、鎮圧活動などで炎を度々使うと聞いていたが、それさえも危うい。炎を使うと、己が命を縮めてしまうからな」

 つまり、短命の道を歩まざる負えなくなってしまったという事だ。それも家族の、父王や兄王子の手引きで召集された魔術師たちの手によって……

「あの呪いは厄介だね、呪縛霊たちも相当怯えていたからさ」

 そう話す青江に、三日月は「やはりな」と言葉を漏らしては顎に手を添える。

「だが、助けだせる可能性はある。それを伝えるために、三日月はここに着たのではないのか?」

 表情を変えることなく、そう話す巴形に長谷部たちは目を見開かせた。

「ほ、本当なのか!? あんなモノを、どうやって……!?」
「ふむ……俺の顔色を見てそこまで読めるとはな、流石巴形だ。周りをよく見ている」
「俺にとって、今の主が【初めての主】だ。主と共に行動している三日月のことも、常に観察しているからな。よく知っているつもりだ」

 巴形薙刀は、逸話も銘も持たない刀の集合体だ。他の刀剣男士と比べ、良くも悪くも『思い出』と呼ばれるものを持ち合わせていないのだ。だから、今回の顕現で初めて出逢えた審神者が初めての主人。そんな主人の力になろうと、周囲を観察しては身の振る舞いを模索していた。そんな巴形だからこそ、気付けたのかもしれない。ほんの些細な、三日月の変化に……

「今から話すことは、我ら刀剣男士だけの話にしてくれ。これは主命でもある」

 そんな言葉を建前に、三日月は目の前にいるメンバーに『主命』を話した。その『主命』を行うと何が起きるのか、この先でどんな変化が生まれるのかを……

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