ドレスの準備もバッチリ、結婚式場もスノウフィリアが誇る大きな聖堂で行うこととなった。
住民皆を入れるには限度があるけれど、式場周辺には大きな広間がいくつかあるからそこで二次会を行う手筈になっている。
「いよいよ明日だね〜」
のほほん、としたグーフィの言葉に私はコクリと頷いた。
「俺達、特等席なんか座って本当に良かったのかな……」
「今更疑問に思うことかよ……相手の好意を受け入れるのも大事だ」
「そうだとしてもさ〜」
手を頭の後ろで組んでいるソラに、リクは苦笑いを浮かべながらも返事をしているみたい。
「結局、ハートレスの情報は入らないままね……」
「グワワ……鍵穴も見当たらないし……」
「グミシップの修理が終わるまでに見つかれば大丈夫でしょう、我らの身柄はフロスト王子が保証してくれますから」
「ああ、遠慮するな。船が完璧に直るまで、面倒を見てやろう」
不安な表情が取れないまま話すカイリちゃんとドナルドに、フロストさんとジミニーが言葉を続ける。
彼らがスノウフィリアに滞在してから早一週間、いよいよ挙式が明日と迫ってきている。私はと言えば、少しだけそわそわしながらも心穏やかに日々を過ごしていた。
それは多分、私はこの先もずっと彼と共に在れることが嬉しくて……倖せを噛みしめているからだと思う。
「招待状を持った人たちが往来しているらしいし、明日が待ち遠しいです!」
「そうね……」
何事もなければ良いけれど……
そう思いながら、フロストさんと肩を並べる私を――遠く離れた場所から奥歯を噛みしめ震える人影があったことに……この時の私は気付く由もなかった。
♪
明日だ……明日になれば、ようやく名実共に彼女が俺のモノになる。
挙式後の初夜は寝かせるつもりもなく、どうやって彼女を美味しく頂こうかと考える始末。嗚呼、欲はどんどん膨らんでいくばかりだ。
「寝ないんですか?」
「ん……」
椅子に腰かけ本を広げていると、風呂上りであろう彼女は暖かい服を纏いながら歩み寄ってきた。
ふわり、と漂う彼女の香りに心なしか少しだけ鼓動が速くなるのを感じる。
「あまり寝付けなくてな、明日が楽しみなど……餓鬼でもあるまいし」
「実は、私も。少し落ち着かなくて」
少しだけ照れながら話す名前に、俺は読んでる途中の本を近くの机に置いてから彼女と肩を並べた。
そしてベッドに腰かけ、そっと彼女の背に手を回し抱き寄せる。
これが、毎晩寝る前にやっている行為だ。
「明日から夫婦となる、そのせいだろうな」
「恋人から夫婦、というのがあまり実感が湧かなくて……普段と変わらない筈なのに」
「赤の他人から家族になるからだろう」
恋人と言われていようが、赤の他人であることには変わりない。どれだけ同じ時を過ごしていようが、各々に帰るべき場所があることに変わりないのだから。
だが、夫婦となる……つまり一つの『家族』を作ろうとしているのだ。帰るべき場所に愛する存在が待っている……これほどまでに心が満たされることはない。
「家族、か……。もう二度と、手に入らないと思っていたのでなんだか実感が……」
「嗚呼……」
幼い頃に両親を失い、家族と呼べる存在と突然別れたからだろうな。遠い昔となった家族の温かみを、彼女は諦めていたのかもしれない。もう二度と、取り戻せないとまで思っていた筈だ。
「家族が戻らないなら、作ってしまえばいい。お前が母となり、俺や子供と共に家庭を築き上げていけば問題あるまい」
「子供って……まだまだ先のような気もしますけど……」
「そんなことはない、明日の夜は寝かせる気はないからな。覚悟しておくように」
「え……!?」
目を丸くさせたり顔を赤くしたり、本当に表情をコロコロ変えて忙しいことこの上ない。
恋人として過ごす最後の夜といては、十分すぎる一時を過ごすと、いつものように一つのベッドの上で横になり一緒に夢の世界へと旅立つのだった。
夫婦としての新たなスタートが切れることを切に願いながら……
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