紅鏡の国・フレアルージュ――
客間にある椅子へ腰かけている私とアポロは、デザイナーの方と一緒に目の前に広がるデザイン画を見ていた。
シンプルな純白のドレス、オレンジ一色の中にラメのような装飾がされているドレス、炎を連想させるデザインが施されているタキシード、シンプルな橙色一色のタキシード……
「わあ……素敵なデザインばかりですね」
「お褒めの言葉、ありがとうございます。未来のフレアルージュ王と王妃様の婚礼の儀に着用して頂ける服のデザインを任されている身、どれも劣ってはいけませんから」
フンスと鼻息を荒くしながら力んで話すデザイナーさんに、私は頬が熱くなるのを感じた。そう、今回デザイナーさんを招いた理由は……私とアポロの結婚式に着る服のデザインを決める為だ。
城下に住んでいる民たちも招いての大々的な挙式になることもあり、大勢の人たちの目に晒されることになる服だ。生半可なデザインを着るわけにはいかない、ということで専門のデザイナーさんを呼んで特注でお願いすることとなった。
事前に取り入れてほしい配色やデザインは口頭でお話していたので、今日はデザイナーさんが案を出した試作絵を見ている。
「アポロ、このデザインのドレスはどうでしょうか?」
「良いのではないか?」
「こちらも素敵なデザインですけど……」
「それでも構わん」
「…………」
ドレスのデザイン画を手にしながら話している私に、アポロは肯定の言葉しか返していない。
それもそのはず、だって……
「アポロ、目を閉じながらそう話をされても説得力ないんですけど……」
「ん?」
そう、アポロは自分が着るタキシードのデザイン画以外の絵を見ようとしないのだ。
もしかして、気に入らないのだろうか? どれも素敵なデザインで、アポロも気に入ってくれると思ったのに……
「そうむくれるな、綺麗な顔が台無しだぞ」
片目を開くアポロは、笑いながら私の頬へと手を伸ばす。私を見つめてくれるその瞳は、デザイン画の方へ一切向けてくれなくて……私は眉を下げた。
「アポロ、どうして見てくれないんですか? 一緒にデザインを決めようって、話したじゃないですか」
「確かに、姫の言う事はごもっともだ。だがな……これは俺にとっての楽しみでもあるのだ」
「楽しみ……?」
彼の意図が分からず、デザイナーさんと共に首をかしげる。
「どれほど多くのデザインを提示されようとも、姫が気に入ったものでなければ意味がない。それに、お前が気に入ったデザインのドレスは、当日にこの目で見たいと思っているのでな。我が妃は、どんなデザインのドレスでも美しく着こなしてくれる。楽しみは、当日に取っておきたいのだ」
口元に笑みを浮かべながらそう話すアポロに、私だけでなくデザイナーさんも顔を赤くしてしまう。
もう、本当にこの人は……自然と私を喜ばせる言葉を口にするんだから……
「で、では……私はこのデザインのドレスで、お願いします」
「畏まりました……! アポロ様を驚かせるほどの、素晴らしい代物にしてみせましょう!」
「俺はこのデザインのタキシードで頼む」
そんな話をしながら、当日着る予定となっている服のデザインが決まるのだった。
私たちの結婚式まで、約一ヶ月。近付いてくる彼との生活に、私は緊張しながらも嬉しさに胸を高鳴らせていた。
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